NGNはインターネットに比べて通信の品質やセキュリティが高い。企業にとっては、SaaSなど外部にあるアプリケーションが自社の業務で使いやすくなる。さらに、NGNの機能モジュールを連携させるSDP(サービス提供基盤)を活用すれば、SOA的なアプローチでシステムを構築できるようになる。

 NGNは、ユーザー企業によるシステム構築の枠組みを大きく変える。ユーザー企業に与えるインパクトは二つある。一つは、これまでは通信事業者だけが利用していた携帯電話の位置情報や認証情報がサービスとして提供されることで、ユーザー企業がこれまで以上に戦略的なシステムを比較的容易に構築できるようになる点。もう一つは、ネットワークの通信品質やセキュリティが向上することにより、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)のような、インターネット経由でアプリケーションを提供するサービスが、これまで以上に利用しやすくなることである。

 単に通信時のセキュリティや品質が高いというだけでない効果も見込める。通信事業者がSaaS事業者に認証情報を提供すれば、「複数のSaaSを利用する場合にユーザーを個別に認証する必要がなく、複数のサービスを組み合わせたサービスが一層実現しやすくなる」(日本オラクルの藤本寛アプリケーションマーケティング本部長)。

 「調査会社のレポートによると、2010年には全世界のソフトウエアの30%がSaaSになるという。企業の情報システムには欠かせない選択肢になる」と、米セールスフォース・ドットコムのジム・スティール社長はSaaSの重要性を、こう強調する。アプリケーションでも、セキュリティや通信制御機能でも、必要なものはネットワークを介して組み合わせ、システムを手早く作るのが、NGN時代のシステム構築手法の一つになる。「NGNが普及して認知が広まれば、SaaSサービスを利用したいというユーザー企業は増えるだろう」(ベルシステム24の早川賢ネットワーク情報システム室長)とみる企業は少なくない。

SOAに基づいた構造になる

 NGN経由で提供されるSaaSをユーザー企業が利用するイメージを、業務の流れに沿って見てみよう。営業部門が利用するテレビ会議システムを例にとる(図1)。

図1●ユーザー企業は、社内に向けて提供するサービスのシナリオに沿って、SaaSと社内システムを連携させる
図1●ユーザー企業は、社内に向けて提供するサービスのシナリオに沿って、SaaSと社内システムを連携させる
[画像のクリックで拡大表示]

 ユーザーは会議参加者に、予定をメールで通知する。プレゼンス管理機能によって、相手が在席中かが分かるので、外出している参加予定者には携帯電話にショート・メッセージを送信する。会議の直前には、参加者の位置情報やプレゼンス情報に基づいて、参加の可否を判断することもできる。外出先で携帯電話しか持たない参加者には、テレビ会議の映像を携帯電話に最適化して送信するといったことも可能だ。

 こういった新しい業務システムを構築する場合に、業務プロセスに沿って、事業者が提供する機能や情報などのモジュール、あるいは業務アプリケーションに近いSaaSを取り込んで、ネットワークと連動するシステムを構築するわけだ。

 このような手法は、SOA(サービス指向アーキテクチャ)の考え方に極めて近い。「位置情報」や「ユーザー認証」「プレゼンス管理」といった、機能を絞ったモジュールを自在に組み合わせて、新しい業務を支えるシステムを構築できる柔軟性があるからだ。事業者自身も顧客の要望に応じて個別にシステムを構築するよりも、ソフトウエアを再利用すれば生産性が高まる。さらに、情報とアプリケーションが一体となったモジュールが提供されるため、ネットワーク経由でサービスとして利用するメリットが大きくなる。

 NGNの世界で「イネーブラ」と呼ぶ、通信事業者が外部に提供する機能モジュールは、「単機能で粒度の小さいサービスとして提供されるだろう」(日本IBM 通信・メディア・公益 第二ソリューション営業部の真野淳部長)という見方がIT業界では一般的だ。

 この小さな機能モジュールを組み合わせて、一つのビジネス・プロセスを組み立てる基盤が、「SDP(サービス提供基盤)」である。NGNを利用してシステムを構築する際は、これらイネーブラをESB(エンタープライズ・サービス・バス)製品を使って組み合わせる(図2)。ESBは、Webサービスを組み合わせ、データ形式や処理順序を定義することで、一つのシステムのように利用できるようにする仕組みである。

図2●SDPは、アプリケーションのモジュールを組み合わせてサービスを提供するための基盤である
図2●SDPは、アプリケーションのモジュールを組み合わせてサービスを提供するための基盤である
[画像のクリックで拡大表示]

>>(2)へ続く