NGNの機能モジュールを連携させるSDP(サービス提供基盤)はSDPは通信事業者だけのものか、と言えばそうではない。通信事業者が公開する機能を使ってビジネスを展開するSaaS事業者、コンシューマ向けにNGN経由でサービスを提供する企業などもSDPを構築することになりそうだ。機能モジュールを組み合わせて、ファイル共有機能付きテレビ会議サービス、といった企業が使いやすい形でアプリケーションを提供する事業者も登場するだろう。

サービス形態は3パターン

 SDPを使ったサービス提供形態は大きく分けて三つのパターンが考えられる(図3)。一つ目は、NTTなどの通信事業者だけがSDPを使ってサービスを提供する場合である。NTTドコモが提供しているiモードのように、通信事業者がネットワーク・インフラと顧客データベースや課金システムを一手に握る。このパターンは、特定の通信事業者が独占的にインフラを利用する形になるため、現実になることは考えにくい。

図3●NGNを使ったアプリケーション・サービスの提供形態は大きく三つある
図3●NGNを使ったアプリケーション・サービスの提供形態は大きく三つある
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 実際には図3のパターン2や3のように、できるだけ機能を開放し、SaaS事業者やユーザー企業が自前でSDPを構築し、事業者と同等のサービスを提供できるようになるとみられる。パターン2では、SIPや、情報システムからネットワーク機器を操作するためのインタフェース「Parlay-X」などを使って企業やSaaS事業者がネットワーク機能の一部を制御する。

 しかし、ネットワークの制御を外部に開放すると、セキュリティが保てないというNTTの主張にも一理ある。事業者が用意したAPIを介して事業者のサービスを利用するパターン3が現実味を帯びる。

イネーブラが豊富な外資系ベンダー

 SDPの核は、アプリケーション・サーバーや、ネットワーク機器を制御するSIPアプリケーション・サーバーで構成する。SDPを構築するためのソフトウエア群は、ITベンダー各社が相次いで販売を開始している(表1)。

表1●SDPを構築するためのソフトウエア製品群
表1●SDPを構築するためのソフトウエア製品群
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 先行しているのは、日本IBM、日本オラクル、日本BEAシステムズなどの外資系ITベンダーである。海外の通信事業者は、光ファイバの敷設などでは日本よりも遅れているものの、情報システムはNGNに向けて刷新を始めている。そういった導入事例をベースにした“国際標準”のSDP向け製品を提供する。イネーブラを豊富に用意している点が特徴だ。

 外資系ベンダーの製品でも、マイクロソフトの「Connected Service Framework」のように、イネーブラの品ぞろえが少ないものもある。ネットワーク機器などとの連携アダプタは標準でそろえるものの、あとは、自社のミドルウエアやアプリケーション製品を組み合わせてSDPを構築するという戦略である。日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、特定のミドルウエアに限定することなく、事業者の個別要件に合わせてSDPを構築する。

 一方、これから本格的に力を入れようとしているのが、NEC、沖電気、日立製作所などの国産勢。NECと日立は、アプリケーション・サーバーをベースに、SIPアプリケーション・サーバー、プレゼンス管理ソフト、テレビ会議ソフト、映像配信ソフトなどを組み合わせる。沖電気は、米BEAシステムズと共同でSIP アプリケーション・サーバーを開発。WebLogic Serverを核にしたSDP向け製品を提供する。

システム部門に必要なスキルが変わる

 ユーザー企業に求められるスキルも変わってきそうだ。アイ・ティ・アールの内山悟志社長は、「これからの情報システム部門には、木工とか金工ではなく、プラモデル作りのような感覚が求められる」と指摘する。つまり、JavaやC++などのプログラミング言語や開発手法を熟知することよりも、イネーブラなどの機能モジュールを組み合わせて素早くシステムを構築するスキルが重要になる。

 もちろん、企業の情報システムすべてがNGNの機能を使って構築されるわけではない。ただし、受発注システムやCRM(顧客関係管理)システムなど、取引先企業や外出した営業担当者と、ネットワーク経由で情報をやり取りする機能が求められるシステムは少なくない。そのようなシステムでNGNで提供されるネットワークやサービスを採用すれば、業務改革のスピードが格段に上がるのは間違いない。「システムを早く作ることが、企業の競争力を左右するような状況になれば、従来のシステム開発へのこだわりは薄れる」(日本HPの九嶋俊一インダストリマーケティング本部長)。

 NGN経由で提供されるサービスを取り込んで、新しい業務を支えるシステムの構想を描けるかどうか、情報システム部門やシステム・インテグレータの力量が問われる。

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