少し前,都心のオフィス街で,取材先のAさんと同僚のB記者の3人で飲んだ。Aさんはそこそこ大きな企業のシステム部員。働き盛りのマネージャーである。「相変わらず忙しいんですか」などと近況を聞くうち,話題は自然とアウトソーシングに移った。

 ITサービス企業や会社を巻き込んだ運用改革に取り組むAさんと,ユーザー企業を駆け回って,企業情報化の実状をしつこく(本当に)取材してきたB記者は,この時が初対面。立場こそ違えど,「ユーザーとITサービス企業の接点で起こること」に深い関心を抱き続けている点は共通する。そしてここは私の大好きな取材テーマでもある。

 私はワケあって禁酒中なので,ドライジンジャーエールでお茶をにごしたが(涙),A氏とB記者はそれぞれ,うまそうにメコンウイスキーなどを傾けつつ,持論をぶつけあっていた。メモをとっていたワケでもないので,やや過剰演出が入りますが,ちょっと再現してみます。

B記者「運用をアウトソーシングすると絶対,品質は下がりますよ。ブラックボックス化してユーザー自身でコントロールできなくなる。そこが分かっている会社は,自分でやり始めてますよ」

A氏「いやいや,それがそうでもなくなってきたんですよ。というか,良い方法があるんです。アウトソーシングでも,ちゃんと定期的に見直してコストや品質を改善し続けていくやり方が」

B記者「それは無理でしょう。だって,僕がアウトソーシング業者だったら,まじめに改善提案なんかしないですよ。だって料金下げなきゃならないし,手間もかかる。そのままの値段とやり方でも続けられるのに」

A氏(不敵に笑って)「いやいや,それがね,使えるんですよ,あれが」

B記者と私(一斉に)「何ですか?」

A氏「内部統制ですよ~。内部統制を確立しようとすると,アウトソース先に対しても『今までより詳細なレポートを頻繁に上げろ』という要請がどうしても出てくるんです。そうしないと,ユーザー側の責任者が,今度は上司や経営陣に説明できずに困るから」

「じゃあ,報告と言っても口頭で,とかいうんじゃなく,ユーザーの担当者が上司や経営陣に対してもきちんと“証拠”として示せるような,きちんとした形式のレポートが求められるということですか」

A氏「そうですそうです」

 というわけで,まだまだ漠然とした話ではあるが,どうやら内部統制確立のプロジェクトは,ITサービス企業との接点部分を改革する絶好のチャンスになる,そのための方法も分かってきた,ということらしい。

 現状でも,ユーザーとアウトソース先のITサービス企業の間には,「定期ミーティング」といった“接点”が確保されてはいる。だが,運用が落ち着いてトラブルが減ってくると,単なる現状確認の場になってしまい,改善をし続けようという緊張感はなくなる。その結果,品質とコストがどうなるか。これについては過去,ユーザー企業やITサービス企業からの取材で山のように耳にしてきた。

 この文脈で思い出したのは,「日経ソリューションビジネス」2006年6月15日号の特集CIOの直言で,半年ほど前にお邪魔したローソンのアプローチだ。

 積極的なアウトソーシング活用で知られる同社の長谷川進常務執行役員CIOは,実はソフトハウス経営の経験もあり,ITサービス企業の手の内を熟知している。その長谷川CIOが,アウトソーシングにおける「馴れ合いのリスク」を排除するために考えついた方法である。

 「ITサービス企業でも第一線で通用するITのプロでありながら,システムやITサービスのROI(Return On Investment)向上をミッションとする新たな役割」の設定である。ユーザー企業とITサービス企業の間にいて,ITサービス企業からの提案の技術的,コスト的な妥当性を,絶えずユーザーの視点でチェックするという。長谷川CIOはこのアプローチを「ミドル・ソーシング」と呼んでいた。インとアウトの間ということだろう。

 さてAさんは今,新しいアイデアをどう実装するか検討中である。報告の形式や内容,タイミング,承認ルートなどをどう設計すれば,改善サイクルのベースとして使えるのだろうか。契約時のSLA(Service Level Agreement)などにも深くからんできそうな話である。

 そして実際にアウトソーシングの現場に立つ運用担当者にとって重要なのが,新しいやり方を実現するために,社内でどう動けばよいかである。この点でも,彼のノウハウは十二分に発揮されそうである。私も,将来ITproのどこかでその成果やノウハウを披露してもらいたいと,楽しみにしている。