2006年8月あたりから「Microsoft Expression」に関するプレスリリースが賑やかになってきています。Expressionシリーズは「Graphic Designer」「Interactive Designer」そして「Expression Web」の3本で構成され,デザインのプロフェッショナルをターゲットとした製品群になっています。

 今回はそのうちの「Expression Web」について,実際に日本語ベータ版を触りながら,その感触を確かめてみることにします。2006年10月1日現在,下記のサイトからベータ版の配布も行われています。特に機能制限もなく,誰でも自由にダウンロードして試用することができます。

[マイクロソフト Expressionホーム]

 Expression Webのベータ版はマイクロソフト Experssionホームの左側メニューから「リソース」-「ダウンロード」-「Expression Web 日本語ベータ版」とたどってダウンロードします。なおExpression Webを動作させるにはMicrosoft .NET Framework 2.0が必要です。上記ダウンロードページから入手できます。

 Expression Webベータ版を導入するにあたって注意することがあります。Expression Webをデフォルト設定のままインストールすると,同時にMicrosoft Office IME 2007(Beta)もインストールされます。IME 2007はIME 2003と比べてCPUおよびメモリー負荷が大きい(ベータ版だからかもしれません)ようで,低スペック・マシンではWindows全体のパフォーマンスにも影響が出ます。Expression Webそのものがベータ版である点に十分留意し,こうした弊害が起こりえる可能性も認知したうえで試用してください。

セットアップ画面から見えること

 ダウンロードしたファイルを実行するとインストールが始まります。


セットアップのトップ画面

 インストール・オプションの画面は一度確認したほうがいいでしょう


インストール・オプションの画面

 オプション項目には本体であるExpression Webだけでなく,OfficeツールやAccessといったオプションがちらほらでてきます。VBAも実装されています。

 ASP.NETの開発に使用する場合は,関連オプションのインストールも必要になります。Webプログラマ(広義のJavaScriptのプログラマを含む)は,「Microsoft Script Editor」もインストールしておくといいでしょう。「Office SharePoint Serviceサポート」という項目もあります。これについては後述します。

Expression WebはFrontPageの後継なのか

 ものすごく乱暴に言ってしまうとExpression WebはHTML制作ソフトです。HTML制作ソフトということであれば,Microsft OfficeシリーズにはすでにMicosoft FrontPage(現行バージョンは2003)があります。しかし次期OfficeにはFrontPageは含まれないことが発表されています。

 この発表だけ見ると,Expression WebはFrontPageが名前を変えただけの後継ソフトというとらえ方もできますが,実際にはFrontPageは現行バージョンが最終となり二分割されます。本稿でご紹介している「Expression Web」と,こちらも新製品となる「Microsoft Office SharePoint Designer 2007」です。

 FrontPage 2003で追加された機能の多くはMicrosoft Office SharePoint Designer 2007に引き継がれることとなりました。そして元々FrontPageの本道であるHTMLドキュメントのデザイン機能がExpression Webのほうに引き継がれるという形になったわけです。どちらもベースはFrontPage 2003ですが,SharePoint Designerはより開発者向けのイントラネット対応となり,Expression Webはデザイナー向けにインターネット志向が強くなります。

 純粋にHTMLドキュメントのデザイン・ツールということになれば,Macromedia Dreamweaverと競合する製品ということになります。Expressionの残り二つのパッケージ,Graphic DesignerとInteractive Designerを合わせて考えると,MacromediaのDreamWeaver,Fireworks,Flashとラインアップも含めてはっきりと競合してきます(参考:マイクロソフトのExpression担当者に聞く)。

HTML制作ソフトとしては標準レベル

 下記がExpression Webの動作画面です。


Expression Webの動作画面。テンプレートでパーソナルサイトを構築した

 HTML制作ソフトとしての基本形であり,FrontPageの雰囲気を色濃く残しています。古くからHTMLの制作にFrontPageを使っている人にとっては違和感も少なく,移行も簡単そうです。

 新規にWebページを作成する場合,新規作成ダイアログから「ページ」あるいは「Web サイト」を選択します。


新規作成ダイアログ

 よく見ると,ASP.NETという単語がちらほらと目につくのがわかります。もちろんこれらはIIS(Internet Information Services)が動作している環境でなくては使えません。

 Web サイトのタブでは,サイト一式を作成できます。こちらにはASP.NETに依存する部分はありません。テンプレートは25種類ほどが用意されています。

 コツコツと1ページずつ制作するというのは現在のWeb制作の主流ではありません。サイト単位で共通テンプレートを使い,デザインの統一性を持たせて制作していくといった手法が中心になります。全くの新規サイトではない場合,既存サイトからドキュメントと関連ファイル(CSS,JavaScript,画像,動画など)をインポートする機能があります。


Webサイト インポート ウィザードで既存サイトのコンテンツを収集できる

 そのサイトがFrontPageで作られている場合には,部分的な競合(コンフリクト)が発生するらしく,警告ダイアログが出ます。


FrontPageで作成されているサイトを読み込もうとしたときのアラート

 HTML制作ソフトとして見たExpression Webの第一印象は“可もなく不可もなく”です。タイトルバーを隠せばFrontPageだと誤解されることのほうが多いと思います。

ASP.NETベースの開発には便利な機能が多い

 Expression Webは,(当然ながら)ASP.NETへのサポート機能が豊富に用意されています。


ツールボックス内のASP.NET関連パーツ

 ASP.NET関連のパーツは,そのまま作成中のドキュメントにドロップすることでASP.NETのひな型のソースコードを貼り付けることができます。

 つまり,ASP.NETベースのアプリケーション開発環境に限って言えば,Expression Webを使うことで,きわめて簡単にWebシステムを構築できることがわかります。XMLやAccessのデータソース,SQL ServerのデータソースからWebページ上にデータを表示することなど容易です。簡単なデータリスト程度であれば1日~数日のトレーニングで専業デザイナーでもシステムを作成できると思います。

 とはいえ,ASP.NETベースでWebアプリケーションの開発をしている人たちでなければ,ASP.NETパーツを使う必要はありません。その意味では,プラットフォームをある程度限定するツールという言い方はできます。

PHPサポートはないが,JavaScriptは扱いやすい

 競合製品となるアドビ システムズのDreamweaverと比較した際に気になるのは,最近のWebアプリケーション開発で主流になってきたPHPが,ネイティブでサポートされていない点です。PHPのタグである<?phpから,?>という表記部分は無効なタグと解釈されます。ただし,PHPで書かれたファイルをドロップして,内容の編集やデザインの大枠を確認することはできます。

 多くのPHPプログラマは,IDE(統合開発環境)ではなく,テキスト・エディタを使用しています。ですからPHPサポートの有無がExpression Webのアドバンテージの差にはつながりませんが,PHPのコード部を無効タグ扱いで無視するのでなく,PHPと認識するくらいの度量は欲しかったところです。

 PHP対応はともかく,そのほかのスクリプト言語に対するサポートは非常に高感触です。

 例えばJScriptやJavaScriptを記述する際に,キーワードの色分けとインテリセンス機能が働きます。


JavaScriptのコードは関数や制御構造が色分け表示される


Visual Studioと同等の入力補完(インテリセンス)機能が使える。引数の意味も表示されるのでリファレンスを確認するケースもグンと減る

 スクリプト記述の自動補完についてはDreamweaverにはない機能で,Visual Studioのような開発ソフトを持つマイクロソフトに軍配が上がるようです。インテリセンスについてはExpression Webから搭載されたということではなく,FrontPageにもあった機能ですが,Ajaxの台頭もあってJavaScriptはFrontPage時代よりも現在のほうが必要とされているので重宝するでしょう。

 Expression Webの製品版は2007年初頭の発売が予定されています。製品版発売時に改めてその実力をご紹介できればと思います。