2M~30MHz帯域を使う高速PLCはすんなりと解禁されたわけではない。PLCを使うときに電力線から漏れ出してしまう電磁波が問題となり,議論が紛糾した。Part2では,電力線を使うが故の問題点と課題を見ていく。電磁波が漏れるメカニズムからその対策,さらには,実利用環境でのPLCの伝送速度まで,詳しく追っていこう。

問題点
電磁波が漏れるメカニズム

電力線にPLCの信号を流すと,電力線から電磁波が漏れ出して,他の無線通信に悪影響を及ぼす。その原因となるのが,コモン・モード電流と呼ばれるものだ。

 PLCの問題点は,2M~30MHzの信号を電力線に流したときに,電力線から電磁波が漏れ出してしまうことである。漏れ出した電磁波が同じ帯域を使う無線通信のノイズになってしまうのだ。でも,電磁波が漏れるといってもいまいちピンとこない。そこで,まずは発生源となる電力線について知っておこう。

 一般家庭の実際の電気配線を見てみると,電力線は電柱から家に引き込まれ,家の中の分電盤につながっている(図2-1)。分電盤を見ると,機器や部屋ごとに分岐していていることがわかる。その線の先にはさらに分岐があり,スイッチやコンセント,照明などに延びている*1。家の中の電気配線はまさに分岐だらけなのだ。

図2-1●家庭内の電気配線は分電盤から分岐している
図2-1●家庭内の電気配線は分電盤から分岐している
分電盤から電力線が分岐し,さらにその先でユニット・ケーブルなどを使いスイッチやコンセント,照明に分岐している。多くの家庭には電力線が3本来ており,100Vと200Vの電圧を供給する。
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コモン・モード電流がノイズの原因

 PLCの信号は,分岐だらけの電気配線の上を流れる。電気配線には50または60Hzの電源用の電気が流れているので,これに2M~30MHzという高い周波数の信号を重ねることになる。こうした状況で,電気配線の上を「コモン・モード電流」という電流が流れると,電磁波が発生してしまう。

 コモン・モード電流とは,電力線を構成する平行にならんだ2本の銅線で同じ方向に流れる電流のことである。聞き慣れない言葉だが,ノイズの発生を知るうえでとても重要な用語だ。

 通常は,電源と機器とを電力線でつなぐと,電気は電源からぐるりと1周して戻ってくる。2本の銅線がループとなり,行きと戻りで逆方向の電流が流れることになる(図2-2)。

図2-2●漏えいする電磁波が他の無線通信のノイズになる
図2-2●漏えいする電磁波が他の無線通信のノイズになる
電力線の中には2本の銅線が平行に通っている。2本の銅線の特性が異なると,同じ向きに流れる電流(コモン・モード電流)が生じる。このコモン・モード電流によって漏えい電磁波が発生する。漏えい電磁波は同じ周波数帯域を使う無線通信にとってのノイズとなり,通信を妨害する。
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 こうしたループは2本の銅線間以外でも,地面との間に接地(アース)などを通してできる。地面との間のループは,2本の銅線別々にでき,同じ方向に電流が流れる。これがコモン・モード電流だ。

 コモン・モード電流が流れる銅線の周囲には,磁界と電界が発生する*2。そして,電力線がアンテナとして働いて,電磁波が遠くまで漏れ出てしまう*3のだ。