家の中でネットワークを構築しようと思ったとき,LANケーブルを使うか無線LANにするか迷うケースがあるだろう。LANケーブルを使えば安定して高速のデータ伝送を利用できるが,ケーブルを引き回すのが面倒だ。一方,無線LANは手軽だけれど,速度が出ないかもしれないという不安が残る。

 どちらにしようか悩んだとき,別の通信方式を検討してみるのはどうだろうか。家の電気配線(電力線)を使う「電力線通信」という方法だ。英語の「power line communication」を略して「PLC」と呼ぶことも多い。

 PLCはこれまで使える帯域が10k~450kHzに限られており,10kビット/秒程度の低速な通信しかできなかった。それが2006年秋をめどに規制が緩和され,2M~30MHzという広い帯域で使えるようになる*1。実効速度は最大で数十Mビット/秒になる見込みだ。

PLCには五つの用途がある

 PLCのメリットは,すでに引いてある電気配線を通信用に使えるという手軽さである。新たにケーブルを配線しなくても家の隅々までネットワークを構築でき,電源プラグをコンセントに挿すだけでそのネットワークにつながる。

 このメリットから,PLCには五つの用途が考えられている(図1)。

図1●出来の悪い提案書に書かれたスケジュールの例
図1●PLCの使い方と技術のポイント
PLCの使い方は大きく5通りある。ただし,日本では屋内の利用のみ許可されている。すでに引いてある電気配線を使えるのはメリットだが,電気配線を使うことでデメリットも生じる。[画像のクリックで拡大表示]

 一つめがホーム・ネットワークだ。複数のパソコンをつなぐ家庭内LANとして使うだけでなく,テレビとハードディスク・レコーダの間で高品質な画像をやりとりするといった場面で使える。

 二つめの使い方は部屋間をつなぐ伝送路。各部屋では無線LANを使い,電波が届きにくい部屋間はPLCを使うことで無線LANを補完する。

 三つめの使い方は電気製品や住宅設備のコントロール。センサーと組み合わせて照明やエアコンなどの設備機器を制御するために使う。

 これまでも,10k~450kHzの帯域を使うPLCは設備のコントロール用として利用できた*2。しかし速度の遅さがネックになり,あまり使われていないのが実情だ*3

 四つめの使い方は,建物までの通信回線である。近くの電柱から建物の中に引き込むブロードバンドのアクセス回線として使う。光ファイバを建物に引き込むには工事が必要だが,電力線を使えば引き込みの工事はいらない。ただし,国内ではPLCの利用が屋内限定なので,この使い方はできない*4

 五つめは,建物内の通信回線。集合住宅やオフィスの電気室から,各戸/各フロアまでの通信回線として電力線を使う*5

モデムと電力線の特徴を知ろう

 PLCの基本は,データを電力線で運ぶということ。そのためには,データを電力線に載せるためのPLCモデムが必要になる。PLCを知るには,まずPLCモデムのしくみを理解しなければならない。そこで,続くPart1では,PLCモデムの内部とPLCの伝送技術を詳しく見ていく。

 手軽でわかりやすい半面,PLCは電力線を使うが故の問題を抱えている。電力線はそもそもデータ伝送に使うことを想定したケーブルではないので,PLCモデムの信号を流すと電力線から電磁波が漏れ出し,他の無線通信のノイズになるのだ。

 PLCを実用化するには,このノイズを抑えることが不可欠。そこでPart2では,電磁波が漏えいするしくみや対策技術,PLCの規制が緩和されるまでの経緯について,じっくり見ていこう。