ここから先は,PLCを基礎から理解していくために,PLCに詳しい先生に登場していただき,レクチャーをしてもらいながら話を進めよう。先生が事前にポイントを解説してくれるので,参考にしてほしい。

 まずPart1では,松下電器産業のホーム・ネットワーク向けPLCモデムを例に,PLCのしくみを押さえる。PLCを実現するためには,さまざまな技術が使われている。そこでPLCモデムを分解し,中身を確認したうえで,PLCの変調方式やアクセス方式,QoS*6技術について見ていく。

モデムの中身
イーサネット信号をPLC信号に変換

図1-1●PLCモデムには電源用とPLC信号処理用の基板が入っている
図1-1●PLCモデムには電源用とPLC信号処理用の基板が入っている
松下電器産業が米国で販売しているPLCモデム「BL-PA100A」の基板。電源基板とPLCの処理基板(裏,表)の2枚で構成されている。モデムの中でイーサネット信号とPLC信号とを相互に変換する。[画像のクリックで拡大表示]

PLCには標準規格がなく,今はどれもメーカーの独自技術で作られている。ここでは,松下電器産業のPLCモデムを例に,モデムのしくみとPLCの伝送技術について見ていこう。

 PLCがどうやって通信しているのかを知りたいなら,モデム内部の処理をたどっていけばわかりやすいかもしれない。早速,モデムを分解してみよう。

 図1-1は松下電器産業が米国で販売しているPLCモデム「BL-PA100A」の基板である。日本向けの製品ではないが,基本的な構造や通信技術は,規制緩和後に登場する製品と変わらない。

 PLCモデムは,イーサネットのインタフェースを持つ機器と電力線の間で,イーサネット信号とPLC信号を相互に変換する装置である。パソコンなどの機器とPLCモデムをLANケーブルでつなぎ,PLCモデムの電源ケーブルをコンセントに挿して使う。PLCモデムをつないだパソコンがデータを送ると,そのデータはPLCモデムから電気配線を経由して相手先のPLCモデムに伝わり,再びLANケーブル経由で相手先のパソコンに届けられる。


PLCチップで通信をコントロール

 では,PLCモデムにイーサネット信号が入った後の処理を追ってみよう。

 PLCモデムに取り込まれたイーサネット信号はイーサネット・チップに入る。イーサネット・チップは,イーサネットの物理層の処理を担当する。具体的にはイーサネットの伝送に使われる電気信号*7を復調し,ディジタル信号に戻す。

 ディジタル信号に復調されたイーサネット信号は,次にPLCチップへと進む。PLCチップは,PLCモデムの処理の中で要となる部分。PLCチップの最初の仕事は,イーサネットのMAC層の処理を行うこと*8である。

 続いて,取り込んだディジタル信号をPLCで扱う信号に変調するための前処理を行う。BL-PA100Aでは,PLCの変調方式としてOFDM*9をベースとした技術を採用している。OFDMについては,後で詳しく解説する。

 また,PLCチップは複数のモデムが混信することなく通信できるように制御する役目も担っている。これについても後ほど詳しく説明することにしよう。

性能を左右するアナログ変換

 PLCチップはディジタル信号を処理するところなので,次に電力線で運ぶためのアナログ信号に変調する。OFDMの後処理にあたる部分だ。この処理を担当するのがD/A(A/D)コンバータ*10である。アナログ信号は,さらにアナログ・フロントエンド*11という部分で波形を整えたり,ノイズとなる電流を減らすなどの処理が加えられる。

 D/A(A/D)コンバータとアナログ・フロントエンドを合わせたアナログ処理の回路は,PLCモデムの性能を左右するところだ。特に電力線からデータを受信する際に重要になる。これらの回路は,PLC信号とノイズを選り分け,受信したアナログのPLC信号の波形を送信側が送り出したときの波形に近づけるための処理を行う。PLCの信号をきちんと読み取るための技術が,たくさん詰まっている部分なのだ。

 PLC信号は次に電源基板に進む。PLC基板との受け渡し役であるパルス・トランス*12が,PLC信号を電源基板に送る。こうしてPLC信号は,電源基板の回路から電源プラグを通って電力線へと送り出される。PLCモデムから出力された波形は,50または60Hzの電力供給用の波形の上に,2M~30MHzのPLC信号が重なるイメージになる。