「およそ10年ぶりにシンクライアントが再び注目を集めている」。そんな記事を書いてからどれくらいたつだろう。メーカー各社が相次いで新製品を投入し,業界はヒートアップしたかに見えた。しかし導入事例はまだかなり少ない。最近,その事情を改めて実感した。9月13日開催予定の「ネットワーク・ユーザー・フォーラム」の講演者探しに苦労したのである。ベンダーに問い合わせても,ほとんど紹介してもらえる事例が出てこない。セキュリティなどの理由からユーザー企業側が公表を拒んでいることは考えられるが,本格的な導入事例そのものが少ないことは間違いない。

 一方,ユーザー・フォーラムの企画を進める中で,シンクライアントの注目度の高さも改めて認識した。集客力がすごいのだ。正直言って,集客にはもっと苦労するかもしれないと危惧していたのだが。

 でもそれなら,なぜ導入が進まないのか。理由はいろいろある。よく言われるのは導入コストが高いこと,パソコンに比べると使い勝手が必ずしもよくないことだ。それにも増して影響が大きいのは,既存のパソコンのリプレース時期だろう。ほとんどの企業は,クライアント・パソコンを一定の単位で徐々に入れ替える。これを一斉にシンクライアントに入れ替えるのは,現実的とは言えない。

 ただ、裏を返すと,今後数年にわたってクライアント・パソコンのリースアップが来るたびに,段階的にシンクライアントが採用されていく可能性がある。今の注目度の高さから考えると,利用環境が整えば3~5年後には相当普及しているのではないかとさえ思える。導入コストなどのハードルは依然として残るものの,そこはユーザーの工夫次第という側面がある。例えばある企業は,シンクライアントの専用機を採用せず,全社2000台の既存パソコンをシンクライアント化した。その作業にかかった費用は1台当たり7500円。2000台で1500万円という計算だ。

 シンクライアントの専用機に置き換える場合は,端末だけで1台当たり10万円は下らない。2000台を一気に購入すると端末だけで2億円を超える。既存パソコンをシンクライアントとして再利用する場合も,実際には,シンクライアントとして動作させるためのソフトウエア代,ソフトをCD-ROMに焼き付けて配布するコスト,そしてシンクライアントを機能させるためのサーバーの構築費が加わるから,導入費用全体は前述の1500万円よりずっと高くなる。それでも,端末をそっくり入れ替えるよりは格段に安くシンクライアント環境を手に入れられる。前述した企業の担当者によると,「Windows95/98のマシンでも性能的には十分。当面はハードウエアを入れ替える予定はない」と言う。

 こう聞いて、シンクライアントを見直す方は少なくないのではないだろうか。この事例は,前述したネットワーク・ユーザー・フォーラムで講演していただく1社の話。フォーラムでは,この企業を含めて4社/組織の方々に,経験者しか知り得ない話を披露していただく。数年先を見据えて次のクライアントを考える企業の方々には,きっと有益な情報があるはずだ。ぜひ,ご来場いただければと思う。