レイムダック化(弱体化)したダメシステムをいかに蘇生させるかを考えるシリーズを続けているが,これからしばらくの間システムに関わる「人々」を取り上げて検討してみよう。

 彼らがシステムのレイムダック化にどのように関わるのか,それを踏まえて彼らはシステムの蘇生にどのように関わるべきかを考えていきたい。

 「彼ら」と一言でくくっても,実にさまざまな役割を持つ人々が存在する。まず,大きく分けてベンダー企業,コンサルタント,ユーザー企業という役割がある。システム導入に関わる人々という観点から,ベンダー企業はさらにトップ・経営者,プロジェクトマネージャ,SEと分けられる。ユーザー企業にいたっては,トップ・経営者,CIO,幹部,プロジェクトマネージャ,情報システム部門,そして最終的なエンドユーザーという人々がそれぞれ重要な役割を持ちながら関わってくる。ユーザー企業内のこれらの人々の総合力が「ユーザー企業」の力として表われる。

 これらの人々それぞれがシステムの導入に関わり,それぞれの立場で自分の役割をきちんと果たせばシステム導入は成功するが,どこかが役割を果たさなければシステムはレイムダック化することになる。


ユーザー部門はITの構築・運用では非主流派

 まず,ユーザー企業の人々から取り上げていこう。

 システムに最も近く,かつシステムの影響を直接受ける人たちは,ユーザー部門に所属する人々である。システムの導入・運用費用を負担するのはユーザーであり,システムの恩恵を蒙るのも,システムがトラブった時に迷惑を蒙るのもユーザーである。ユーザーはシステムの導入にも,その後の成り行きにも決して無関心ではいられない。ユーザーに焦点を当てることから始めよう。

 そもそもユーザーという立場は,悲しい存在である。筆者はユーザーの立場にも身を置いたことがあるが,その際,何度も辛酸をなめた。多くのユーザーも同じ経験をしているだろう。ITという視点から見ると,社内においてシステム構築を請け負う情報システム部門は主流派で,ユーザー部門は非主流派である。ユーザーの意見は通りにくい。そして仮に意見の衝突があった時,経営層を中心とする体制側は主流派に味方し,非主流派は(特にライン部門であるほど)いつも疑いの目で見られる。

「システムを使わないから,納期確保も在庫縮減も収益達成もできないんだ」
「システムの欠陥を云々する前に,自分のノルマを達成しろ」などと。

 そう言われ続けて,ついにユーザーは貝になる。システムに対するクレームや要求を出すと,火の粉が我が身に降りかかるおそれがあるからである。加えてIT分野の人材がいないユーザーは,ますます口を閉ざすことになる。このことが,ユーザーがレイムダック化したシステムの蘇生に関与する場面で,足枷(かせ)となってくる。それをいかに克服するかも,ここでのテーマのひとつになる。では,ユーザーはシステムのレイムダック化にどのように関わっているのか。

 ここで議論の対象にしたいのは,導入後レイムダック化したシステムを蘇生させるためのユーザーの役割である。その議論を解りやすくするためにも,あるいはレイムダック化の反省の意味も含めて,システム導入時にさかのぼってユーザーの役割を整理しておきたい。

 これまでの連載の中ですでに議論してきたが,システム導入成功のための条件はいくつかある。その中でユーザーが主体的に関わることのできる条件,あるいはユーザーの協力無しでは達成できない条件には以下のようなものがある。

1.システム構築・導入のプロジェクトチームへの最適な人材の投入
 これにはライン業務を犠牲にしてでも優れた人材を選び,派遣する覚悟が必要になる。エース級を引き抜いた後,苦しい中で人材が育ったという経験も少なくない。

2.意識改革
 システム導入時に必須とされる意識改革の最も重要な対象は,ユーザー部門である。意識改革の必要性は経営層や関連部門にも及ぶが,システム化の対象業務を担当するユーザーが,旧来の意識にとらわれていては,ことが始まらない。ユーザーは,自ら積極的に意識改革に取り組まなければならない。

3.教育
 ユーザーは,新しいシステムについていくための知識と技術を進んで習得しなければならない。でなければ,自らを役立たない人材に堕落させることになる。

4.現状調査や要件定義への協力
 問題点把握などのための現状調査や要件定義などに,ユーザー部門の意見を積極的に反映させること。聞かれなかったから言わなかった,言ったのに意見が反映されていない,聞いてくる人の人間性に問題があった,などの不満は天に唾するも同じである。

5.業務改革
 まず業務改革があって,ITがその補助手段としてある。そのことを充分認識していれば,その業務に深く関わるユーザーとして,業務改革に積極的に挑戦していくのは義務とさえ言える。

 以上のシステム導入時の成功条件に対して,ユーザーは往々にして手抜きをする。ユーザーの手抜きによってシステムはレイムダック化し,使い物にならなくなる。それは導入システムのレイムダック化にユーザーがユーザー自身の姿勢や質の点からどう関わったのかという経緯と重要な関連がある。

 次回はその経緯を見ながら,システム蘇生のためのユーザーの役割を模索していこう。


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■増岡 直二郎 (ますおか なおじろう)

【略歴】
小樽商科大学卒業後,日立製作所・八木アンテナなどの幹部を歴任。事業企画から製造,情報システム,営業など幅広く経験。現在は,nao IT研究所代表として経営指導・執筆・大学非常勤講師・講演などで活躍中。

【主な著書】
『IT導入は企業を危うくする』,『迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件』(いずれも洋泉社)

【連絡先】
nao-it@keh.biglobe.ne.jp