今回の調査で中堅・中小企業の回答者属性を見ると,中堅・中小企業の約7割以上が「専任のIT部門」を置いているのが分かる。専任体制を敷いていることや,IT部門が独立した部門として進化していることは評価できる。しかし一方では,未だに旧態依然とした業務システムだけの専従部門として,かつてのオフコン時代の「EDP室」的な役割にとどまっているところも多いようだ。

 IT部門はITに関わることに専念する。必ずしも悪いことではないが,役割分担を推し進めた結果として,どうしても経営戦略的な側面が弱くなる。業務システムの開発,管理・運用に追われて,それ以外のことをやる余裕がない。逆にいえば,社内から「IT以外のことはしないほうが良い」と見られている,あるいはその権限が与えられていないとも言えるだろう。

 戦略的なシステムの構築・運用には経営者の関与が不可欠だが,残念ながら「経営が戦略的」であることと「IT戦略」はシンクロしていないのが実態のようだ。大企業のようにCIO(最高情報責任者)が指揮権を持ってIT戦略を策定している中堅・中小企業はまだ少ない。むしろ小規模の企業の方が,組織が小さいだけ経営者が直接ITに関与している割合が高い。
 


企業規模が大きいほどサーバー導入は「情報処理,IT部門」に任せきり

 ITシステムの導入プロセスを聞いた結果が図1である。「IT部門が推進者で,購入の意思決定は経営者・役員が行う」が68.8%と約7割を占めている。「経営者がサーバーシステムの推進に関わる」は,わずか11.2%に過ぎない。「情報処理,IT部門」が推進者となって,「経営者」が意思決定をするという構図は時系列で見ても,2001年以降ほとんど同じだ。むしろ近年になるに従い,一層顕著な「IT部門にお任せ」が進行している。

図1●ITシステムの導入プロセスについて(nは有効回答数)

 従来は兼務で行っていたコンピュータの業務処理を,専任化した「IT部門」が処理するようになった。そのこと自体は,大きな進歩と言えよう。しかし,専任化した結果として他部門との間の「風通し」が悪くなれば,「企業のコアビジネスに役立つITの構築」に関わることはできない。戦略的な,付加価値の高いITシステムの構築は「IT部門」任せでは当然限界がある。経営も現場も,ITのことをIT部門だけに押し付けていると風通しが悪くなっている。本来は,全社一体となった構築・運用が望ましいことは言うまでもない。

 ちなみに企業規模別に見ると,年商100億円以上の企業では82.4%が「IT部門が推進者で,購入の意思決定は経営者・役員が行う」(図2)。この割合が,10億円以上100億円未満の企業では65.9%,10億円未満の企業だと48.2%となる。10億円未満の企業では,約3割がサーバーシステムの導入で「経営者・役員が推進者・決定者となる」。やはり企業規模によって差が出ている。

図2●年商規模別のITシステムの導入プロセス(有効回答数は931)

 次回は,ITシステムのセキュリティについて取り上げる。

 なお,調査の概要をご覧になりたい場合は,第1回をご参照下さい。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノーク・リサーチ代表。矢野経済研究所を経て1998年に独立し,ノーク・リサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意とする。