地上デジタルテレビ放送は2003年12月に,携帯端末向けのワンセグは2006年4月にスタート---。とはいえ,このスケジュールでサービスが始まったのは東名阪など一部の地域だけである。国内には地デジ,ワンセグともに,東名阪よりも遅れてサービスが始まった地域や,まだ始まっていない地域も多い。

 今回のワンセグ放送局探検隊では,ワンセグサービスがこの6月に始まったばかりの北海道の事例を4回に分けて報告する。まず[総論]では,北海道のワンセグサービスの現状や地域的な事情を解説。その後,TBS系列局の北海道放送(HBC),テレビ朝日系列の北海道テレビ放送(HTB),フジテレビ系列局の北海道文化放送(uhb)のワンセグへの取り組み状況をリポートする。

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  • 2006年6月に地デジとワンセグが同時開局

     北海道のテレビ局各局では,地上デジタル放送のサービス以前からアナログテレビのデータ放送サービスに積極的に取り組んできた。北海道放送と北海道文化放送は「ビットキャスト」を,北海道テレビ放送は「ADAMS」を提供し,地上デジタル放送開局に向けてデータ放送のノウハウを吸収してきた。

     地上デジタル放送の開局は,2006年6月1日。東名阪よりも2年半ほど遅れてサービスを提供することになった。北海道ではそれだけでなく,地デジ開局と同時に携帯機器向けのワンセグサービスも開局するスケジュールが決まった。地デジの固定テレビ向けサービスとワンセグサービスを時間差で開局できた東名阪などと比べ,同時開局となった北海道各局は負担が大きい。

     北海道の民放局では地上デジタル放送開局に伴い,東名阪の地上波局に準じるデータ放送制作システムを導入。固定テレビ向けとワンセグサービスは6月に無事,同時スタートにこぎつけた。しかし,人的・金銭的リソースの負担はローカル局に重くのしかかる。実際,テレビ放送として地デジとワンセグを提供し,さらにデータ放送まで提供するとなるとすべてには手が回らない。固定テレビ向けのデータ放送に比べるとワンセグのデータ放送には手を掛けられていないのが実情である。

     そこで各局とも,少ない人材を活用して効率よくデータ放送を制作するために,「CMS(Contents Management System,コンテンツ管理システム)」を開発・導入している。データ放送用の新規情報や更新データをパソコンから現場で入力し,固定向けデータ放送,ワンセグ放送,携帯Webサイト,パソコン用のWebサイトで“マルチユース”する。ワンセグで番組連動データ放送まで作るリソースはないまでも,少ない負担でワンセグの非連動データ放送を提供する仕組みを構築している。

    端末の普及やエリアがワンセグの足かせ

     各局の担当者は,「北海道エリアでは,ワンセグ端末の普及が進んでいない」と口をそろえる。その要因はいくつかある。一つは通勤・通学事情。東名阪を中心に行われたワンセグ調査では「通勤・通学の時間帯に見る/見たい」という人が多い。一方,北海道では通勤時間が短く,さらに車利用や地下鉄利用が多い。ワンセグでテレビを見る積極的な理由に乏しいためか,端末台数も「ようやく1万台に達したレベル」と推定している。


    図1 地上デジタル放送を開始した2006年6月時点の放送エリア 出典:総務省北海道総合通信局「札幌手稲山送信所の放送エリア」
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     もう一つが現状の視聴エリアである。北海道で始まった地上デジタル放送は,札幌市の手稲山にある鉄塔からの放送電波だけに頼っている。ワンセグも同じ鉄塔からの電波でサービスを提供している。サービスエリアは,2006年8月時点では札幌市を中心とした道央圏(札幌市,小樽市,石狩市,美唄市,岩見沢市,江別市,北広島市,恵庭市,千歳市,苫小牧市)の約110万世帯,人口比率としては道内世帯の約48%と,視聴エリアが限られていることが挙げられる(図1)。

     一方で,北海道ならではのワンセグへの期待もある。北海道のブロードバンド普及率を見てみると,32.6%と全国で36位(出典:総務省,2006年3月末)であり,光ファイバを使ったサービスは都市部に限られる現状がある。固定テレビ向けのデータ放送で,通信を利用したリッチなデータ放送コンテンツを提供しても,利用者できるユーザーが少ない。その点,ワンセグ対応の携帯電話ならば,通信機能が必ず付いている。双方向的なサービスを提供するインフラとして,北海道では固定テレビよりもワンセグが適しているという考えである。

     コストと人手を掛ければ,ワンセグでも番組連動などのしっかりとしたコンテンツが作れることは,各局とも理解している。しかし地上デジタル放送との同時開局による編成の負担増加や,上記のようなワンセグを取り巻く環境を考えると,現状では足踏み状態となっていることは否定できない。局により展開の計画は異なるが,本格的なサービス提供はサイマル放送の縛りが外れる可能性がある2008年以降をターゲットとしている。

    エリア拡大に向けた鉄塔問題

     北海道における地上デジタル放送の普及とワンセグサービスの普及には,エリア拡大が重要になる。しかし,このエリア拡大については,他都府県とは異なる北海道ならではの特殊事情もある。それは,広大な土地の面積に対して,どのようにエリアをカバーするかである。

     北海道の広大な面積のすべてをサービスエリアとしてカバーするためには,「中継用のテレビ塔を164本建てなければならない」(北海道テレビ放送)という“鉄塔問題”がある。さらに,この百数十本の鉄塔を建てたとしても,90数%の世帯しかカバーできないという問題もあるようだ。

     総務省では,サービスエリアの拡大に対して,IP Multicastを利用した放送「IP再送信」や衛星を介した放送の有効性を上げている。しかし,このIP MulticastによるIP再送信や衛星では,携帯電話やカーナビに向けたワンセグ放送まで対応できない。観光を一つの収入源とする北海道では,地域住民だけでなく道外からの観光客もワンセグサービスの対象として考えている。このため地上波によるサービス提供を望む声は強い。

     地上波によるエリア拡大を目指して現在検討しているのが,電波の届きにくい地域や場所の受信特性を改善する装置「ギャップフィラー」の設置である。その一つの方策として,国土交通省が災害対策として国道に平行して敷設している光ファイバ網を利用するアイデアがある。国道に平行して敷設された光ファイバには,5k~10km間隔の電柱に光ファイバの口が設けられている。これを活用して,再び放送波を送出する小型中継送信機を取り付けるという手法である。

     これにより,山の上に鉄塔を建てるよりも低コストで,IP Multicast伝送や衛星を使わずに地上デジタル放送のサービスエリアを広げられる。道路沿いにギャップフィラーがあれば,自動車で移動する住民や観光客に対しても,ワンセグサービスが提供できるわけだ。現在,「国土交通省と光ファイバを使う方式について検討している」(北海道テレビ放送)と説明する。

     地上デジタル放送は,2007年内に函館,室蘭,旭川,帯広,釧路,網走,小樽,苫小牧,北見,定山渓,簾舞の12地域に拡大,さらに2008年内に稚内,富良野,留萌,深川,知駒,和寒,上川,上士別,上富良野の9地域でもスタートする予定である(表1)。北海道全土でワンセグサービスを含む地上デジタル放送が視聴できるようになるのは,ギャップフィラーなども含めた鉄塔問題の解決が大きなカギとなりそうだ。

    表1 北海道の地上デジタル放送開始予定
    開始時期地域
    2006年6月1日札幌市を中心とした道央圏---札幌市,小樽市,石狩市,美唄市,岩見沢市,江別市,北広島市,恵庭市,千歳市,苫小牧市(道内世帯の約48%)
    ~2007年12月 函館,室蘭,旭川,帯広,釧路,網走,小樽,苫小牧,北見,定山渓,簾舞
    ~2008年12月 稚内,富良野,留萌,深川,知駒,和寒,上川,上士別,上富良野
    2009年以降 その他の地域