薄鋼板の専門商社の五十鈴が、“問屋の意地”を見せて、業績を伸ばしている。自動車や電機など顧客メーカーに対する付加価値提案がその柱だ。ただし、経営トップの掛け声だけでは会社全体は変われない。現場の社員一人ひとりが改革の意義を持てるような組織変革活動を始めた。


●五十鈴の概要とグループ業績(連結)推移
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IOC活動によってレイアウト変更した富士五十鈴。出庫口を増やして「かんばん方式」にも耐え得る業務プロセスに変わった
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 新日本製鐵が2005年3月期に最高益を記録するなど好業績が続く鉄鋼業界。鉄鋼の二次商社である五十鈴(東京・大田)も好調の波に乗る。2005年度のグループ売上高は前年度比22%増の998億円、経常利益は同86%増の28億円となった。

 五十鈴は薄鋼板と呼ばれる自動車や電機など幅広い分野で使われる鉄鋼を取り扱う。商社とはいえ、主要な納入先に近い場所に加工拠点(コイルセンター)を全国9カ所に設けている。その役割は、鉄鋼メーカーが製造した銅帯を顧客の要望に合ったサイズに加工し、望まれる量だけを届けることだ。各加工拠点を会社組織にして、五十鈴グループを形成している。この五十鈴グループが今目指しているのが、「コイルセンターをサービスセンターに変ぼうさせること」(グループ代表の鈴木貴士・五十鈴社長)だ。

 素材をただ販売するだけではなく、顧客に価値あるサービスを提供する。それが五十鈴が考えるサービスセンター化だ。背景には流通構造の変化がある。自動車メーカーが鉄鋼メーカーから直接仕入れるといった「問屋中抜き」の動きがあるからだ。好調な鉄鋼業界の陰では、鉄鋼商社の淘汰が進んでいるのもまた事実なのだ。顧客が自身で手がけている在庫管理や加工業務を五十鈴グループ内に取り込む、つまり顧客に付加価値を提案できれば、専門商社の存在意義を再認識してもらえると考えている。

拠点を超えてチーム同士が情報共有

 ただし、「サービスセンターを目指せ」と言われても、戸惑う現場社員は多いだろう。そこで、五十鈴はツールを用意した。それがIOC(Isuzu Organization Change)活動である。グループ全体や各拠点が立てた目標を、社員一人ひとりがやるべきことにまで落とし込むものだ。

 当面の目標はグループ全体の中期経営計画の達成だ。五十鈴ではそのためにまず、「生産性の追求」「顧客への貢献」といった注力すべきポイント(成果領域)を設定する。そして、ポイントを実現するための指標と具体的な目標値を決める。生産性の追求であれば「1人当たりの収益性」、顧客への貢献であれば、「マーケットシェア」などだ。全国の各拠点は、この目標を達成するために何をすべきかを練っていく。取り組むべきテーマごとにいくつかのチームを作り、解決策を考えさせる。これが全社員参画型のIOC活動である。

 ユニークなのは、拠点の枠を超えて、同じテーマで取り組むチームと情報共有していることだ。「ナレッジフォーラム」や「ナレッジミーティング」と呼ぶ成功事例の横展開や情報共有する場を設けている。こうした場を設けることで、拠点内だけでなく、全社的な取り組みだと意識づけている。

 IOC活動でチームがテーマ解決に充てられる期間は3年。五十鈴の現場ではこれまで1年単位の改善活動を続けてきた。3年の期間を与えられることで、小さな改善ではなく創造的で大きな改革のテーマに挑むことができる。

 IOC活動の成果は既に出始めた。拠点の1つである富士五十鈴(静岡県富士市)の例を見てみよう。3年前、富士五十鈴に着任したばかりの牛島淳一社長は、この拠点なりの付加価値をつけるにはどのようにすればよいのか悩んでいたという。当時の富士五十鈴は売り上げのうち25%を主にエアコンを製造する電機メーカーに頼っていた。春から夏にかけて忙しくなるが、秋から冬にかけては閑散期。年間を通じて安定した収益を確保するにはどうすればよいかという問題だ。

 牛島社長は年間を通じて安定している自動車業界からの受注に力を注ぐことにした。ただし、自動車業界の受注を増やすには、納期の早さとコスト競争力を一層身につけなければならない。裏返せば、それを身につけられれば、富士五十鈴の付加価値となる。

 牛島社長の提案に、社員たちは当初具体的に何をすればよいか理解できていない様子だったという。しかし、牛島社長がメールマガジンで何気なく書いた「海の家からリゾートホテルへ変わろう」と訴えたことが、社員の理解を促した。海の家のように夏の短期間だけでなく、リゾートホテルのように年間を通じて収益を上げられるように転換しようという例えだった。全社員でどういった業務プロセスが必要なのか考える改革が始まった。