坂村健・東京大学教授は,1984年に「TRON」を提唱してから現在の「ユビキタス」に至るまで一貫して,「コンピュータによる人間社会の支援」というテーマにこだわってきた。前編に続く今回は,バーチャルな世界からリアルな世界へのリンクを張ることが次の世界を切り開くと説く。
(聞き手=ITpro発行人 浅見直樹,構成=ITpro 高下義弘,写真=栗原克己)

坂村健・東京大学教授/YRPユビキタス・
ネットワーキング研究所長

Web2.0やGoogleの躍進を見て,これこそが次世代を象徴する技術,企業,あるいは社会のムーブメントだ,と感じる人も多いようです。

 ネットは確かに社会を変えた。しかし,テクノロジーは相互に支え合って存在しています。当たり前のことですが,ネットは光ファイバーを敷設する企業や,ルーターを開発し提供する企業があるから成り立っている。基盤となるテクノロジーが発達したからこそ,ネットが存在するわけです。

 そしてインターネットが普及したからGoogleがあるわけです。確かにGoogleは次世代の象徴かもしれないが,次世代のすべてではない。なにしろ,Googleだけ存在していたところで,どうにもならない。みんな実体のある,現実の世界に住んでいる限りね。

Web2.0やGoogleに代表されるネットの技術や動きに,社会が過度な関心を寄せているとも言えそうです。Googleが以前,「成長率は緩やかに減少している。売上高が今後増え続けるにつれ,これまでのような高い成長率を維持していくのは難しくなる」という主旨の説明をしました。すると瞬く間にGoogleの株価が下落しました。これはネットに対する過度な期待を象徴したエピソードではないでしょうか。

 いえ,私は違うと思います。むしろ,Googleの躍進がバーチャルであるということを皆知っていて,その限界がいつかは来ると“織り込み済み”だったのではないでしょうか。ITバブルがまだ痛みを伴った経験として残っているから,ちょっとした停滞に対しても過度に反応したのでしょう。

 特に米国はイノベーションに効率性を求める傾向があります。時間も手間もかかるイノベーションに効率性を要求する点が,米国の強さの源泉だとは思います。しかし,そんな傾向があるがゆえに,(Googleのような)素早く結果を出す企業に,過度な期待と素早い衰退への予感を抱いてしまうのでしょう。

坂村教授の「ユビキタスID(uID)」は,バーチャルとリアルを融合するコンピュータ・アーキテクチャです(uIDの関連記事)。Googleもネットの世界に閉じず,「Google Maps」などでリアルな世界との融合に取り組んでいます。ユビキタス・コンピューティングとGoogleに接点が出てきそうなところに,面白さを感じています。

 事業であれば,さまざまなことに資本を投下し,成長を試みるのは当然のことです。ですから,Googleがユビキタス・コンピューティングのようなバーチャルとリアルの融合を目指すのは,不思議でも何でもないでしょうね。先ほども言ったように,この世界はネットだけに閉じてはいないのですから。

 話は少し脇にそれますが,米国には手に入れた資本を研究開発や事業として展開するのが上手い人が多い。残念ながら,日本はそうではない。日本はまだまだ米国から多くのことを学ぶべきですが,お金の使い方はその一つだと思います。