写真1 Zuneの先行宣伝サイト「<a href="http://comingzune.com/" target="_blank">comingzune.com</a>」<br>アクセスすると音楽が流れ,その後Zuneのニュースレター登録画面が現れる。写真は登録終了後に現れる画面。Zuneのロゴ付き壁紙を提供している
写真1 Zuneの先行宣伝サイト「<a href="http://comingzune.com/" target="_blank">comingzune.com</a>」<br>アクセスすると音楽が流れ,その後Zuneのニュースレター登録画面が現れる。写真は登録終了後に現れる画面。Zuneのロゴ付き壁紙を提供している
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写真2 「&lt;a href="http://www.zuneinsider.com/" target="_blank"&gt;Zune Insider Blog&lt;/a&gt;」&lt;br&gt;このブログでMenendez氏が日々新情報を追加している。7月26日付けの投稿では,MicrosoftのCEO Steve Ballmer氏が壇上でZuneについて語っているとされる写真が掲載されている
写真2 「<a href="http://www.zuneinsider.com/" target="_blank">Zune Insider Blog</a>」<br>このブログでMenendez氏が日々新情報を追加している。7月26日付けの投稿では,MicrosoftのCEO Steve Ballmer氏が壇上でZuneについて語っているとされる写真が掲載されている
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 7月第4週の金曜日,「米Microsoftが,計画中のiPod対抗製品の存在を認めた」というニュースが報じられて以降,この話題が技術系およびビジネス系のメディアをにぎわしている(関連記事)。

 発端は,MSN Entertainment Business部門ジェネラル・マネージャChris Stephenson氏に対するBillboard誌の独占インタビューだった(Billboard誌シニア・ライターAntony Bruno氏の記事)。これについて,まずReutersが報じ,同日中に,Bloomberg NewsやNew York Times,CNN,Forbesといった大手メディアも一斉に取り上げた。これによりニュースは瞬く間に世界中を駆け巡ることになった。

 かねてから噂されていたMicrosoftのiPod対抗戦略。これを同社が初めて認めたことに加え,「Zune」という開発コード名や,いくつかの搭載技術が明かされた。またZuneの先行宣伝サイト(写真1)や,Zuneの開発に携わることになったとされるCesar Menendez氏のブログ「Zune Insider Blog」(写真2)についても報じられた。現在,こうした情報に基づいて,さまざまな議論が飛び交っている。今回はこれらの議論や報道から,Microsoftの新戦略Zuneをみていこう。

音楽プレーヤは,遠大な計画の第一歩

 今回,MicrosoftのStephenson氏がBillboard誌に明らかにしたのは,同社が携帯型音楽プレーヤを開発中で,それを年内にリリースする計画であるということ。プレーヤはハードディスク装置(HDD)を内蔵。Wi-Fi機能を備えるので,機器から直接無線ネットに接続できる。

 併せてMicrosoftは,Apple Computerのデジタル音楽販売サービス「iTunes Music Store」と同様の,機器と統合したサービスの提供を計画していることも明らかにした。

 MicrosoftがWi-Fi機能をどのように利用するかについて,Stephenson氏は明確な答えを避けたが,7つか8つの異なるシナリオを検討中であることは明かした。Billboard誌の記事によると,そのシナリオとは,「ユーザーが同じホットスポット内のほかのZuneユーザーのプレイリストを閲覧できる」ことだったり,「楽曲のサンプルを聴いたり,オンライン・ストレージ内にあるコンテンツにアクセスできる」こと。また「機器から楽曲を直接購入/ダウンロードできる」といったことなど,広範に及ぶという。

 この無線ネット接続機能は,「Microsoftの遠大な計画にとって必要不可欠」とStephenson氏は説明している。その計画とは,Windowsベースの機器から,デジタル・メディアにユビキタスに接続するための環境を提供することである。ある機器では,MySpace.comといったSNSのようなサービス(関連記事)の提供を目指し,ある機器ではiTunesやXbox Liveのようなものを目指すという。

 Stephenson氏は,こうした機能を「多面的に音楽を発見できる体験」と表現しており,Microsoftでは,「Xbox 360」やWindows Media Center搭載パソコン,Windows Mobile搭載の携帯電話にまで,こうした機能を広げていきたい考えであるという。

 こうしてみると,Zuneとは,単なる音楽プレーヤの新戦略にとどまらないということが分かる。Microsoftは,各種デジタル・エンターテインメント・サービスを提供するためのハードウエア/ソフトウエアの製品群を考えており,それらをとりまとめた包括的なブランド名が「Zune」ということになる。

 具体的な製品構成については最終決定されていないとのことで,同社はその内容を明らかにしていない。しかし,今回明かした音楽プレーヤがその第1弾であることは確かなようである。

 Stephenson氏はBillboardの記事の中で次のようにも述べている。

 「異なる機器同士で接続できる機能を持たせることが,この戦略の中核となる。(中略)我々の構想は,携帯端末やPC,Xboxといった機器でどこからでもエンターテインメントにアクセスできるようにすることだ」(Chris Stephenson氏)

 記事では,そのエンターテインメント・コンテンツがまずは音楽であり,その後,ビデオやゲームといった別のコンテンツへと展開していくと報じている(Billboardの記事)。どうやらMicrosoftは,ZuneをiPod/iTunesキラーの本命と位置付けているようだ。

パートナ企業への裏切りか?

 しかし別のメディアでは,「MicrosoftのZuneは,携帯型デジタル音楽プレーヤで77%のシェアを持つApple Computerにはそれほどの影響を及ぼさない」とする業界関係者の意見も報じられている。それによれば,Zuneの影響を受けるのは,残り二十数パーセントのシェアを分け合っているデジタル音楽プレーヤ・メーカーだという。

 この市場には,例えばシンガポールCreative Technology(関連記事)や韓国iRiverがいる。InformationWeekの記事は,「真っ先に打撃を受けるのはこうしたメーカー」とするJupiterResearchアナリストの見解を掲載し,Microsoftをとりまく“生態系”が,やがて崩壊していくのではないかと指摘している(InformationWeek記事

 というのも,打撃を受けるとされているメーカーは,Microsoftのパートナ企業だからだ。Microsoftは,機器やサービスとWindows Media Playerの互換性を保証する認定プログラム「PlaysForSure」を提供している。その認定を受けているのがこうしたメーカーなのである。音楽プレーヤ市場に自らが乗り出すことで,「Microsoftはパートナ企業を裏切ってしまうのか?」という懸念が広がっているという。

 “裏切る”のはハードウエア・メーカーだけではない。「Napster-to-Go」「AOL Now」「FYE」「Wal-Mart Music Downloads」といった音楽配信サービスも同様にPlaysForSureの認定を受けている。こうしたサービスは今後,Zuneで提供される音楽サービスと直接的な競合関係になると予想され,こちらについてもその将来が心配されている(ZD Netのブログ記事)。

続々報じられる期待と課題

 このほかにも,メディアは業界関係者のさまざまな意見を報じている。例えば,iRiver AmericaのCEOであるJonathan Sasse氏は,「Zuneにより市場全体が活気づくようになり,業界の認知度も高まる」との見解を述べている(掲載記事)。

 Microsoftは今回のZune戦略で,Xboxのキャンペーンで投じた金額(5億ドル)と同等の規模の資金を投入すると伝えられている(関連記事)。これにより,これまでデジタル音楽プレーヤを使ったことのない人々が新たなユーザー層を形成し,結果的として既存メーカー/サービス提供者の売り上げ向上につながると予想している。

 一方で,Microsoftの新戦略そのものが必ずしも成功を収めるとは限らないという見方もある。iPodにはなく,ZuneのウリになっているWi-Fi機能は,その展開いかんによっては失敗するかもしれないという。

 Gartnerのアナリストは,「機器から楽曲を直接購入/ダウンロードできるようにするサービスを実現するには,ユーザー・インタフェースについて深い理解と知識を持っている必要がある」と指摘する。パソコンを介すことなくこうした仕組みを提供するには,その操作性が重要な鍵になってくるというのだ。iPodのようにシンプルで優れたインタフェースを作るのは非常に難しく,競合企業がいまだに模索している部分だという(掲載記事

 実は米国ではすでに,無線ネット接続機能を備えたプレーヤと音楽配信サービスを組み合わせて提供している企業がある。MusicGremlinである。同社サービスの料金は定額制で,そのダウンロード楽曲数に制限はない。会員同士で,プレイリストはもちろん,楽曲そのものを共有できる機能を提供するなど工夫を凝らしている。

 しかし,これが今後iPodのように成功するかは未知数という。このほか,iPodユーザーをどうやってZuneに移行させるかということもMicrosoftの課題である(掲載記事)。

 また,iTunesは,ここのところ急速にビデオ・コンテンツを拡充している(関連記事)。Microsoftはこの分野でもAppleに対抗していかなければならない。

 Microsoftは,オンライン・ゲームなどのエンターテインメント・サービスをパソコンや携帯電話,携帯端末などあらゆる分野に広げようという「Live Anywhere」構想を発表している(関連記事)。これとZuneの関係をどう分かりやすくして提供していくのか,そのブランド戦略も課題だろう。

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 BusinessWeekが今年4月,世界の企業のシニア・マネージャ1000人以上を対象に実施したアンケート調査結果に基づいて,「世界で最も革新的な企業(World's Most Innovative Companies)」を発表した。今年も引き続きトップに輝いたのはApple Computer。2位はGoogleで,3M,トヨタ自動車と続き,5位にMicrosoftが入った(掲載記事)。

 この「革新的」とは,単に新製品において技術革新があるだけでなく,そのビジネス・モデルや開発体制なども含め,従来のニーズを後追いするのではなく,時代を先取りできる能力を示すのだという(掲載記事)。

 このランキングがAppleとMicrosoftの今の立場を如実に物語っているような気がする。Microsoftには,独自のイノベーションを発揮し,Zuneを「革新的」なものにしてもらいたいと筆者は願っている。

■著者紹介:小久保 重信(こくぼ しげのぶ)

ニューズフロント社長。1961年生まれ。98年よりBizTech, BizIT,IT Proの「USニュースフラッシュ」記事を執筆。2000年,有限会社ビットアークを共同設立し,「日経MAC」などに寄稿。2001年,株式会社ニューズフロントを設立。「ニュースの収集から記事執筆・編集など,IT専門記者・翻訳者の能力を生かした一貫した制作業務」を専門とする。共同著書に「ファイルメーカーPro 職人のTips 100」(日経BP社,2000年)がある。