図 コモン・モード電流が高速電力線通信のノイズを生む
図 コモン・モード電流が高速電力線通信のノイズを生む
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 コモン・モード電流とは,平行する2本の導線で同じ方向に流れる電流のこと。

 例えば,電源と機器とを電力線でつなぐと,通常は,電気は電源からぐるりと1周して戻ってくる。2本の導線がループとなり,行きと戻りで逆方向の電流が流れることになる(図)。交流電源につなぐと,電力線を構成する2本の導線には,1秒間に50回もしくは60回の周期で,プラスからマイナス,マイナスからプラスと,逆方向の電気が流れる格好になる。

 こうしたループは2本の導線間以外でもできる。機器を接地(アース)してあると,電源から機器を経由して地面を通るループができる。地面との間のループは2本の導線別々にでき,それぞれのループを同じ方向に電流が流れる。こうした電流をコモン・モード電流と呼ぶ(図)。

 電力線にコモン・モード電流が流れるのは,家庭内の電気配線に分岐が多く,その先にさまざまな機器が接続されているために,2本の導線の間で電気を流す性能のバランス(平衡度)が崩れるから。2本の導線で行きと戻りの電流の大きさが異なる場合,その差分だけコモン・モード電流が流れている。つまり,2本の線の行きと戻りのバランスが大きく崩れている(平衡度が悪い)ときに,コモン・モード電流はたくさん発生する。

 このコモン・モード電流が問題になるのが,,高速電力線通信(PLC:power line communication)の実用化の場面だ(図)。高速電力線通信では,電気配線に2M~30MHzという高周波の電気信号を流して通信を行う。しかし,電力線はそもそも通信用のケーブルとして作られたものではない。それに加えて,電力線は平衡度が悪い。そのため,PLC用のモデムと電源との間でコモン・モード電流が流れやすくなる。コモン・モード電流が流れると,電力線の周囲に磁界と電界が発生し,電力線がアンテナとして働いて,電磁波が遠くまで漏れ出てしまうのだ。

 そのため,高速電力線通信の実用化に際して,総務省はPLCモデムから流れるコモン・モード電流の許容値を定め,外部に漏えいする電磁波を抑えることで,他の無線通信/放送に悪影響が及ばないようにする予定である。