前回は,下請法全般とどのような場合に「親事業者」と「下請事業者」に該当するのかについて説明しました。前回も説明したように,下請法が適用されるのは,契約当事者が「親事業者」,「下請事業者」にそれぞれ該当し,対象となる取引類型が「製造委託」,「修理委託」,「情報成果物作成委託」,「役務提供委託」に該当する場合に限られます。

 今回は,これら取引類型のうち,ITサービスに関連する取引が,どのような場合に「情報成果物作成委託」,「役務提供委託」に該当するのかを見ていきましょう。


情報成果物の作成委託には3つの類型がある

 前回の復習ですが,情報成果物作成委託における情報成果物とは,作成したプログラムやWebのコンテンツなどが該当します(下請法2条6項)。その作成委託には,3つの類型があります。

類型1:親事業者が情報成果物を第三者に「提供」している

 類型1(図1)は,「情報成果物を業として提供している事業者が,その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合」(下請法2条3項)です。

図1●類型1:親事業者が情報成果物を第三者に「提供」

 分かりにくい表現ですが,ここでのポイントは,親事業者に該当する事業者が,「提供」を行っている必要があると言うことです。「提供」とは,「事業者が,他者に対し情報成果物の販売,使用許諾を行うなどの方法により,当該情報成果物を他者の用に供することをいう」とされています。従って,作成されたソフトウエアを親事業者が販売,あるいはライセンスしない場合は類型1に該当せず,情報成果物作成委託ではありません(注1)

 類型1に該当する典型的なケースとしては,パッケージ・ソフトウエアの開発事業者(図1の親事業者)が,ユーザーに提供するパッケージ・ソフトウエアの開発を,他のソフトウエア開発業者(図1の下請事業者)に委託するような場合が考えられます。なお他社への提供やライセンスが純粋に無償の場合には「業として提供している」とはいえず,類型1に該当しないとされていますので,フリーソフトウエアの場合は類型1に当たらず,情報成果物作成委託に該当しないでしょう(注2)

類型2:親事業者が情報成果物の作成を請け負っている

 類型2(図2)は,「情報成果物の作成を業として請け負っている事業者が,その情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合」(下請法2条3項)です。ユーザー企業から委託を受けたベンダー(元請け・親事業者)が下請事業者に再委託する場合に,その再委託に関する取引が該当します(発注元と元請けとの取引は類型2では問題にしていません(注3))。ITサービス業界ではよくあるパターンであるといえるでしょう。

図2●類型2:親事業者が情報成果物の作成を請け負っている


類型3:親事業者が情報成果物を自己使用する


 類型3(図3)は,「自らが使用する情報成果物の作成を業として行っている場合に,その作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する場合」です。類型1が,第三者に情報成果物を販売,ライセンス等する場合であるのに対して,類型3は,情報成果物を自己使用する場合であるのがその違いです。ただし,自己使用するソフトウエアの作成を委託する場合すべてが該当するのではなく,自己使用ソフトウエア等の作成を「業」として行う場合に限定されています。すなわち,自社で使用する情報成果物を「自社で作成している会社」が,情報成果物の作成を委託する場合が類型3です。

図3●類型3:親事業者が情報成果物を自己使用する

 例えば,業務用ソフト開発業者が,自社で使用する会計用ソフト作成の全部または一部を受託事業者へ委託する場合がこれに当たります。自社開発を行っている情報成果物については,内製化が可能で受託事業者の地位が相対的に低くなるため,下請法が適用されるわけです。


契約形式が役務提供でも情報成果物作成委託になる場合がある

 ITサービスに関連する取引は「情報成果物作成委託」以外に,「役務提供委託」に該当する場合があります。役務提供委託とは,事業者が業として行う役務(サービス)の提供の全て又は一部を他の事業者に委託することをいいます(下請法2条4項,図4)。事業者が業として行うサービスの提供とは,委託元の事業者が「他者」に提供するサービスのことで,委託元自ら利用するサービスは含まれません。

図4●「役務提供委託」に該当する取引形態

 例えば,ソフトウエアを販売する事業者が,ソフトウエアを販売した後に顧客サポートサービスを有償で提供しているとします。この顧客サポートサービスを,他の事業者に委託する場合が役務提供委託の典型です。それでは,同じ事例で,無償で顧客サポートサービスを提供した場合はどうでしょうか。この場合も「役務提供委託」に該当します。

 一般に他者に対して提供しているサービスが無償の場合には,役務提供委託に該当しません。しかしサポート自体は無償でも,有償で販売したソフトウエアのサポートのように,サポート代金がソフトウエア代金に含まれていると考えられる場合には,役務提供委託に該当するとされていますので,注意が必要です。

 なお,契約の形式面では,役務(サービス)の形をとっていたとしても,情報成果物作成委託に該当する場合もあります。例えば,販売目的のソフトウエアを作成するため,コーディング作業などのシステム開発業務支援に関係する恒常的な業務委任契約を結ぶ場合です。この場合,親事業者の社内に常駐して様々な情報成果物の作成業務を行っていますので,原則として情報成果物作成委託に該当するとされています(注4)

 つまり,契約の形式としては役務(サービス)の提供となっていたとしても,実態はソフトウエアを作成していますので,情報成果物作成委託に該当するとされるわけです。すなわち,形式よりも実態が重要だということです。これに対して,労働者派遣法の対象となる派遣を利用してシステム開発業務を行う場合は,下請法の対象になりません。

 次回は,下請法の適用がある場合に,注意しなければならない点について説明します。

(注1)したがって,自社で利用するためのソフトウエア開発は,後述の類型3に該当する場合を除き,情報成果物作成委託に該当しません。なぜ,該当しないのかについては,類型3の説明を参照してください
(注2)ただし後述の類型3に該当する可能性があるので注意が必要です
(注3)発注元と元請けとの関係は,類型1に該当するのかの問題です。もちろん,発注元と元請けとの取引が類型1に該当し,元請けと下請けとの取引が類型2に該当するという場合もあり得ます
(注4)「下請取引適正化推進講習会テキスト」18頁Q28参照


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。