前回,収益性の最も基本となる指標はROAであることを説明した。そこで,今回は,このROAをさらに分析する方法を説明しよう。

 ROAを分析する常套手段は,売上高を挿入して,ROAの式を以下のように分解することである。

ROAの式の分解


売上高事業利益率は売上とコストの兼ね合いで決まる

 上記の第1項は,売上高事業利益率と呼ばれる。これは,ROAのうち損益計算書(P/L)に起因する部分だ。損益計算書は単年度ごとのパフォーマンスを表すものであり,言葉を換えれば,第1項の売上高事業利益率は単年度ごとの短期のパフォーマンスに起因する部分と言える(注1)。売上高事業利益率は売上高とコストの兼ね合いで決まるものであり,感覚的に分かりやすいだろう。

 話を簡単にするために,事業利益を「売上高-コスト」と表現すると,売上高事業利益率の式は以下のようになる。

売上高事業利益率の式

 すなわち,売上高事業利益率が高い企業は,コスト/売上高が低い企業だということが分かる。ここで,「そうか。コスト削減すればいいんだな」と考えるのは早計だ。

 確かに,コスト/売上高を下げるためには,分子のコストを下げるか,分母の売上高を上げるしかない。しかし,ビジネスにおいて,カネを掛けないところから富は生まれない。もし,削減したコストが,売上高を獲得するのに必要なコストで,そのコスト削減の結果,それ以上に売上高が下がったら,コスト/売上高は上がってしまい,本末転倒だ。逆に,富を生むのに意味のあるコストを掛けた結果,それに見合う売上増があれば,コスト/売上高は下がる。

 ここで重要なのは,「売上に貢献しないコストを削減し,売上に貢献するコストを増加させる」という考え方だ。多くの企業は,二言目には「コスト削減」と言うが,本当にすべてのコストを削減したら,企業は富を生み出さなくなり,明日はない。重要なのは,「あそこにコストを掛けたいから,ここのコストを削減する」という「コストの最適配分」という考えだ。これが,「売上高事業利益率は売上高とコストの“兼ね合いで決まる”」の意味するところである。


総資本回転率はカネ回りを表す

 ROAを分解した式の第2項である売上高/総資本は,総資本回転率と呼ばれる。回転率なので,習慣的に百分率にせず,単位は「回」を用いる。総資本回転率は,ROAのうち,貸借対照表(B/S)に起因する部分だが,第1項の売上高事業利益率に比べると,今一つイメージが湧きにくい指標だろう。よくある説明に従えば,「資本回転率は,資本を使って何回売上高を上げられたかを表す指標」ということになるが,正直言って,何を言っているか分からない。

 図1を見てみよう。企業は,元手である資本を投下して設備などのインフラを整備し,それらを使って製品を作ったり,商品を購入したりする。そうして,企業はこれらの製品・商品を売ることで,投下した資本を売上という形で回収する。この回収の比率が総資本回転率だ。すなわち,資本回転率というのは,投下した資本を1年間でどれだけ回収できるかという「投下資本の回収スピード」を表している。もっと分かりやすく言えば「カネ回り」である。

図1●総資本回転率のイメージ

 総資本回転率が高いほど資金の回収スピードは速いのでカネ回りは良く,総資本回転率が低いほど資金の回収スピードは遅いのでカネ回りは悪いということになる。第1項の売上高事業利益率が単年度に限ったパフォーマンスを表しているのに対し,第2項の総資本回転率は,複数年度に渡る長期の要因に起因する部分を表しているといえる。

 総資本回転率は,その企業が売上を獲得するのに,どれだけの総資本,すなわち“体格”を必要とするのかに大きく依存する。例えば,大掛かりな設備投資や巨大な装置が必要で,それを何年も使って売上を稼ぐような重厚長大ビジネスの場合は,大きな体格を必要とするため,どうしてもカネ回りは悪く,総資本回転率は低くなる。一方,大きな設備投資を必要とせず,商品を仕入れて売るだけの卸売りや小売業の場合は,スリムな体格でビジネスができるので,カネ回りはよく,総資本回転率は高くなる。

 このように,総資本回転率は,業種や企業の特性によって異なるので,異業種を単純比較して良し悪しを論じても意味がない。それは,マラソンランナーと相撲取りの体格を比べて,「相撲取りは太りすぎだ」ということが無意味なのと同じだ。

 表1は,2004年度におけるROA,売上高事業利益率,総資本回転率の主な業種別平均値だ(統計情報の入手の都合上,経常利益をベースにしている)。全産業平均では,ROAと売上高事業利益率は3.0%~3.5%が平均的なレベルだ。また,総資本回転率は約1回転,すなわち,毎年,総資本とほぼ同額の売上高を上げるのが平均的な姿だということが分かる。

表1 2004年度における主な業種の収益性指標平均値(財務省・法人企業統計年報より抜粋)

 全産業製造業建設業情報
通信業
運輸業卸売
・小売業
サービス業

総資本経常利益率(ROA)(%)

3.5

4.9

2.3

5.4

2.9

2.9

2.9

売上高経常利益率 (%)

3.1

4.8

1.8

6.1

7.8

1.5

3.3

総資本回転率 (回)

1.11

1.03

1.27

0.88

1.07

1.96

0.90


(注1)多くの人が収益性の指標として使う“売上高利益率”は,ROAの一部として内包されていると言える

■金子 智朗 (かねこ ともあき)

【略歴】
 コンサルタント,公認会計士,税理士。東京大学工学部卒業,東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。日本航空株式会社情報システム本部,プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント等を経て独立。現在,経営コンサルティングを中心に,企業研修,講演,執筆も多数実施。特に,元ITエンジニアの経験から,IT関連の案件を得意とする。最近は,内部統制に関する講演やコンサルティングも多い。

【著書】
 「MBA財務会計」(日経BP社),「役に立って面白い会計講座」(「日経ITプロフェッショナル」(日経BP社)で連載)など。

【ホームページ】
http://www.kanekocpa.com

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