前回の解説で,収益性の基本は,利益を投下資本で割った資本利益率であることは理解できただろう。しかし,利益といっても,営業利益や経常利益など,いろいろな利益がある。また,投下資本といっても,株主が投下したものもあれば,債権者が投下したものもある。次なる問題は,分子の利益に何を使い,分母の投下資本に何を使うかということだ。

 代表的な収益性指標に,ROA(Return on Asset:総資本利益率または総資産利益率)とROE(Return on Equity:株主資本利益率または自己資本利益率)がある。これらの指標は,新聞・雑誌等でも頻繁に用いられる指標なので,是非理解して欲しい。

 ROAとROEの定義式はそれぞれ以下のようになっている。

ROA  事業利益   経常利益  +  支払利息 
総資本 総資本

ROE  当期純利益 
株主資本
図1●ROAとROEの定義

 それぞれの式を見ると,ごていねいに分子も分母も異なっている。だからと言って,間違ってもこの式を覚えようとしてはいけない。覚えようとしても,どうせ忘れる。やるべきことは,分母と分子がなぜこうなのかという理由を「理解」することである。そうすれば,無理に覚えようとしなくても,自然と思い出せるようになるはずだ(注1)

ROAは会社全体の平均的な儲ける力

 まずROAである。これは企業の収益性を総合的に見る指標であり,最も基本となる収益性指標だ。言葉を換えれば,「会社全体の平均的な儲ける力=まぐれを除いた真の実力」を見ようとするものである。

 「会社全体」なので,誰が資本を投下したかは問わず,資本の総額である総資本(負債+資本)を用いる。そして,分子にはこの総資本が生み出す利益を対応付ける。

 では,総資本が生み出す利益とは何だろうか。調達された総資本(貸借対照表の右側)は,さまざまな資産の集合体である総資産(貸借対照表の左側)になる。総資産とは,会社全体の仕組みそのものだ。会社の仕組み(=総資産)が「平均的に」生み出す利益とは,特別な場合を除いた会社にとってのコンスタントな利益,すなわち経常利益である。

 ただし,経常利益には支払利息も織り込まれている(注2)。支払利息は資産が原因で発生する費用ではなく,調達資本の一部である負債が原因になって発生する費用だ。支払利息の額を決める負債の大小は,資金調達方法の差異であって,会社の仕組み(=総資産)が儲ける力とは異なる。

 そこで,経常利益の計算過程で控除された支払利息を利益に足し戻したものを,新たに「事業利益」と定義。この事業利益をROAの分子に用いる。事業利益は,支払利息の影響を除いた,すなわち,資本調達方法に左右されない「平均的な利益」ということができる。

 なお,事業利益という概念は制度上の損益計算書には存在しないため,情報として入手しにくい。そこで,実務上は事業利益の代わりに経常利益や営業利益を使うことも多いが,それらはあくまでも簡便的な方法であることを知っておこう。