古舘直樹・資材部国際調達・SCMグループリーダー(右)と改革の旗振り役である資材部のメンバー
古舘直樹・資材部国際調達・SCMグループリーダー(右)と改革の旗振り役である資材部のメンバー
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●電話問い合わせから次のビジネスチャンスを見つけ出す
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●北海道電力の改革成功のポイント
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コスト削減効果は8億円

 TOCの考え方に基づいた業務改善をコンクリート柱のSCMでも適用した。従来、メーカーから納入されたり、回収してきた古いコンクリート柱を、北海道電力の敷地内に保管していた。保管場所は月曜、水曜、金曜の午前9時~午後5時のみ解錠されていた。出入りする時間を限定しておいたほうが在庫を管理しやすいし、毎日開けておくよりも管理コストが安かったからだ。

 実は、この考え方も部分最適にすぎない。持ち込もうとしても持ち込めずに保管場所の近くに一時保管場所ができるなど全体最適にはなっていなかった。何でもないことでも縦割り意識が強い組織では改革が進みにくい。近年グループ経営を強化していたうえに、改革に経営トップのお墨付きがあったため各部署も積極的に協力してくれた。

 こうした物流や保管費用を含めた調達コストは、改革前は30億円だったが、そのうち8億円を削減することができた。3つのパイロットプロジェクトが成果を出し始めると、その後も次々と社内で業務改善プロジェクトが立ち上げられた。

 興味深いのは、そのすべてがSCMと呼ばれていることだ。北海道電力では資材のSCM改革を通じて、様々な部署や取引先が連携しながら全体最適を目指すという運動をSCMと呼ぶことにしているのだ。最初に改革に取り組んだ資材部の古館グループリーダーらが各部署や支店を行脚し、課題の抽出からクロス・ファンクショナル・チームの作り方、その後の運営までを説いている。

 2005年4月から準備に入った「岩見沢支店業務改革SCM」プロジェクトも行脚先の1つだ。電力会社の支店業務とは本来、「受け身」である。その8割が定型業務であったが、同支店では、何とか定型業務を効率的に済ませて、より「攻め」の支店運営ができないかと模索した。

データベースを活用

 取り組んだのは定型業務の基点となる電話受付である。年間3万7000回という電話の数を広報誌やウェブでの情報発信を拡充することで少しでも減らしつつ、問い合わせをいかに次のビジネスチャンスにつなげられるかを考えた。

 そこで取り入れられたのがデータベースの活用だ。顧客からの問い合わせ内容を分類してデータベースに蓄積しておいて、営業企画チームがサービスの向上や新規顧客獲得につなげられるようにした。

 例えば、これまでは「コンクリート柱を移動してほしい」という連絡があれば、配電グループが工事を手配するだけだったが、この情報からはスーパーや飲食店が駐車場設置のためにかけてきた電話である可能性が高い。データベースを活用するようになってから暖房設備をガスや石油から変更してもらったり、厨房(ちゅうぼう)にIH(電磁誘導加熱)クッキングヒーターを導入してもらうなどの新規案件に結びついたこともあった。

 引っ越しや新しい住宅やマンションの建築の情報に対しても、すぐにオール電化などのサービスラインアップを提案するためにアンテナを張るようになった。北海道は、ほかの地域よりも自家発電の比率が高い。攻めの姿勢を貫けばシェア向上も見込めるのだ。

 現在、同支店だけで13のクロス・ファンクショナル・チームが自然発生的に立ち上がり、ほとんどの社員が参加している。資材部が全面的に引っ張ったわけではない。「ある段階から(改革運動が)自走するようになった」と古舘グループリーダーは話す。

 現在、北海道電力では10以上の「SCM」プロジェクトが立ち上がっている。当初、調達コストの削減を目的にしていたSCM改革は変革期にあった企業に一石を投じ、波紋は全社レベルに伝ぱしようとしている。ITの積極的な活用やシェアードサービスの導入も検討している。同社の改革はこれからが本番だ。