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「お客様に向けたJIT生産」

 こうした販売の「見える化」によって、全体では年間の販売見込み数量と実績の差はほぼ10%の範囲に収まるようになり、見込み生産の計画を立てやすくなった。

 しかし、これではまだ不十分だ。石油ファンヒーターの受注が集中する9~1月になると、日々の受注数量は天候などの影響で激しく変動する。この冬は、昨年11月下旬時点では販売状況が落ち着きつつあったが、12月に入ってからは日本列島を寒波が襲い受注が急増した。

 さらに、製品の色には白、黒、赤などのバリエーションがある。色による売れ行きの違いについて、見込みは当たりにくいという。

 この課題を解決するのが、リードタイムを極限まで短縮する「4時間ハイ!ドーゾ生産方式」である。受注数量を1時間に1回自動集計し、即時に生産計画に反映。在庫がない場合でも製品を4時間以内に製造する。従来は2日間程度かかっていた。

 ダイニチ工業はこの体制を「お客様に向けたジャスト・イン・タイム(JIT)生産」と呼んでいる。JIT方式でムダを省く企業は多いが、自動車などでは人気車種で納車待ちが発生することもある。ダイニチ工業の場合は、「納入待ちの間に冬が終わってしまう」(花野生産部長)。

 「ハイ!ドーゾ」実現には、まず部品メーカーの協力が不可欠だ。ダイニチ工業は約6割(金額ベース)の部品を外部から仕入れる。そこで、部品メーカー向け専用ウェブサイトを構築した。ダイニチが生産計画を変更したら、部品の必要量などの情報が即時に伝わる。部品メーカーはこれを見て、サイトからダウンロードして印刷した2次元バーコード付きの納品書を付けて納品する。ダイニチ工業はこのバーコードで納品状況をチェック。未納品があれば自動的に警告を出す。

 部品がそろっても、社内工程で時間がかかっては意味がない。そこで、生産する製品を素早く切り替えられるよう各工程で改善を繰り返し、全工程でシングル段取り(10分以内に次の製品が作れる態勢を整える)を目指した。特に、灯油タンクのプレス金型の段取りは、従来は90分かかっていたが、作業の標準化や担当者の訓練によって10分以内でできるようになった。

 こうした業務改善に当たっては、工程改善コンサルティングで著名な外部専門家の指導を受けた。地道な小集団活動(TQC)の成果も大きい。社内に47あるサークルは、年に2度、「灯油タンク取り出し作業の改善」「塗装ロボットのプログラム変更」といったテーマで成果を報告する。月1回の報告会は、繁忙期であっても全業務を止めて開く。過去24年間にわたって1回の中止もないという。

 石油ファンヒーター市場のトップに立ったダイニチ工業だが、市場自体は成熟しつつある。新たに参入した加湿器やコーヒーメーカーなどの製品でも「ダイニチ流」のサプライチェーン管理を軌道に乗せられるかどうかが、成長のカギを握る。


吉井 久夫 社長
よしい ひさお氏●1947年生まれ(59歳)。73年ダイニチ工業入社。77年資材課長。83年取締役。常務、専務を経て、99年から社長。

相手の都合を考えた「見える化」を

 当社の石油ファンヒーターの出荷台数は2002年3月期に100万台を突破してからも急増し、2006年3月期は170万台を超える。これだけの数を滞りなく生産・出荷できるようになったのはすごいこと。毎年の積み重ねで管理能力を高めてきた結果、今年も無事乗り切ることができた。取引先の小売業からは、製品の性能にプラスして、売りたい製品が確実に仕入れられるメリットを評価していただけた。これがまた次の年につながる。

 他社では通年で売れる製品に力を入れる例が多いが、当社は今も季節商品を扱うリスクに挑んでいる。リスクは、仕組みさえ作ればリスクではなくなる。むしろ、春夏の業務が落ち着く時期に腰を据えて情報システムや業務の改善に取り組めることは、当社にとって幸運だと思う。

 仕組みで重要なのが情報共有だ。「見える化」という言葉は最近のはやり。だが、見せる側が自分の都合ではなく、相手の都合を考えて情報を見せなければ、本当に使える情報にはならない。例えば営業担当者は、工場の都合を考えて販売見込みを申告しなければならないし、運送会社の都合を考えて受注情報を即時入力しなければならない。このことを社内で何度も何度も言うことで、ようやく見え方の精度が高まってきた。(談)