●ダイニチ工業の会社概要と業績推移
●ダイニチ工業の会社概要と業績推移
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新潟市にあるダイニチ工業の石油ファンヒーターの生産ライン。既に寒さのピークを過ぎた3月上旬に、フル稼働で次の冬向けの製品を毎日1万台近く生産している。右は大型灯油タンクが特徴の製品「FW-451L」
新潟市にあるダイニチ工業の石油ファンヒーターの生産ライン。既に寒さのピークを過ぎた3月上旬に、フル稼働で次の冬向けの製品を毎日1万台近く生産している。右は大型灯油タンクが特徴の製品「FW-451L」
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この冬、日本列島は寒波に見舞われ、冬物衣料品や暖房機器は売れに売れた。他社製品が品薄になるなか、家庭用石油ファンヒーター最大手のダイニチ工業は、170万台以上のヒーターを途切れることなく出荷できた。2006年3月期に前年の2倍近い経常利益を見込む。躍進の背景には、7年前の赤字転落をバネに磨いた需給管理力がある。

 気象庁が当初「暖冬」としていた長期予報を訂正せざるを得なかったほどすさまじかった今冬の寒波。家電量販店やホームセンターでは暖房機器が飛ぶように売れ、品切れが相次いだ。

 しかし、ダイニチ工業が製造する「ブルーヒーター」ブランドの石油ファンヒーターは売れ続けた。花野哲行・取締役生産部長は、「商品確保を急いだ小売店から注文が殺到したが、店頭に常に商品がある状態を維持できた。今回だけではなく、過去5年にわたって、1台の取りこぼしもない」と胸を張る。

 ダイニチ工業は、同じ新潟県に本社を置くライバルのコロナなど、他社の製品が品薄になったのを尻目に、製品を売りまくった。2005年度(2006年3月期)の売上高は前年比43.9%増の205億円、経常利益も88.0%増の29億5000万円を見込む。

 家庭用石油ファンヒーター市場における同社のシェアは、2004年度に33%(台数ベース、「家電流通データ総覧2005」による)でトップだったが、今年は一気に50%超をうかがう勢いだ。この市場では、松下電器産業や三菱電機など総合家電メーカーと、ダイニチ工業やコロナといった専業メーカーがしのぎを削ってきたが、松下や三菱はここ1、2年で相次いで撤退した。エアコンなら年中売れるが、石油ファンヒーターの需要は11~1月に集中する。1年にわたって工場の稼働率を保ちつつ、短期の猛烈な需要に対応しなければならないところに、この市場の難しさがある。

 ダイニチ工業も、1999年3月期には創業以来初の赤字に陥った。前冬に売れ残った在庫が重しになったのだ。だからといって生産台数を減らしては固定費を吸収できない。99年6月に昇格した吉井久夫社長は、「生産台数を増やし、低価格でも利益を出せる企業に生まれ変わる」と宣言。値下げによって増えた物量にも対応して利益を出せるよう、販売と生産の両面で改革を断行した。この地道な努力がこの冬に花開いたわけだ。

販売見込みは日に何度でも修正

 まず着手したのが、販売の「見える化」である。2000年から、独自に開発した商談・販売見込みの管理システムを活用している。

 営業担当者は、次の冬に向けた営業活動が始まる毎年3月ごろに、その年の製品ごとの販売計画台数を入力する。その後、営業担当者は家電量販店などと商談を進め、状況が変わるたびに、台数や価格条件などを入力・修正していく。これを基に、営業所・機種別などの販売見込み数量が日次で集計される。8月ごろまでには、その年の大まかな販売見込みが固まる。

 このような営業管理システム自体は珍しくないが、情報の精度を高めるのは難しい。実際ダイニチ工業でも、システム導入初年には、営業担当者が見込み数量を保守的に見積もるケースが多かった。この結果、受注実績が見込み数量を上回ってしまう珍現象が起きた。

 「営業担当者は数字を出せばいつでも製品を作れると思いがちだが、実際には前もって数字を出してくれなければ作れない」(吉井社長)。ダイニチ工業では、冬に向けて春から計画的に石油ファンヒーターを生産し、倉庫に積んでおく。需要期になってから営業担当者がいきなり大量受注の情報を工場に伝えても、既にフル稼働する工場で余分に製品を作ることは不可能だ。

 「この会社は、あなた方の情報で動いているんだ」。営業担当者は計画変更を恐れがちだが、吉井社長は計画変更を奨励。販売見込みが変わったら1日に何度でも入力し直すよう徹底した。

 吉井社長は営業管理システムの変更履歴を見て、何日も計画を変更していない営業担当者には、「どうして変更しないのか」とカミナリを落とした。売り込みがうまくいって計画数量を増やす営業担当者に対しても、褒めるのではなく、「急に数が増えるのはおかしい」と指摘した。「情報を上げるのが営業担当者の仕事。売ることが仕事ではないから、ノルマは必要ない」(吉井社長)