前回までは,堅調な基幹業務系とネットワーク/情報共有系のアプリケーションの導入状況を紹介した。今回は「販売,営業,生産などのコアビジネスで利用される戦略系アプリケーション」を取り上げたい。結論から言うと,戦略的アプリケーションの導入はここ数年横ばいで推移している。極端なことを言えば,内実はオフコン時代とあまり「代わり映えがしない」のである。これは一体,なぜなのかを考察したい。


「始まる前に終わってしまった感」がある戦略系アプリケーション

 筆者を含むアナリスト,メディア関係者で粗製濫造(乱発)気味に繰り出される「IT略語=コンセプト」。毎日のようにさまざまな新たなIT用語が創出され,多くの人々がうんざりしている。ユーザー調査の中でも顕著に指摘されたが,それらIT略語のうち本当に生き残るキーワードは何かと問われても,即答できないのが本音だ。なぜなら,それらの多くが「製品やソリューション」という形では残らずに,「要素技術や概念としてIT世界の中に組み込まれる」ことが多いからだ。大半のIT略語は消え行く,あるいは忘れ去られることになる。

 さて,そのIT略語で表現される「戦略系アプリケーション」だが,ノーク・リサーチの調査でも,すでに数年前に調査項目から消えているアプリケーションさえある。かろうじて残っている戦略系アプリケーションは「SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)」,「CRM(カスタマ・リレーション・マネジメント)」,「SFA(セールス・フォース・オートメーション)」,それに「CTI(コンピュータ・テレフォーニー・インテグレーション)」の4つだ。

 まずSCMの導入率だが,2006年が5.1%で,2005年の6.3%より下がっている。検討中の比率も2006年は26.0%で,同じく2005年の27.1%から下がっている。CRMの導入率も2006年が9.6%,2005年が11.7%。検討中の比率も,同じように2006年で下がっている。SFAも2006年の導入率は10.7%,検討中の比率は35.1%で,ともに2005年より低い。

図1●2006年調査における戦略系アプリケーションの導入状況


図2●2005年調査における戦略系アプリケーションの導入状況

 2006年の導入率が2005年を上回ったのは唯一,CTIだけで,2006年が7.4%,2005年が6.5%。検討中の比率も15.2%から16.4%と上がっている。ただし,検討中企業の比率は4つのアプリケーションの中で最も低い。

 中堅・中小企業全体では,基幹系業務アプリケーションと情報系アプリケーションの導入率が高く,企業のコアビジネスと連動すべき戦略系アプリケーションの導入率は低い。実を言えば,この傾向はこの7,8年ほど変わらないものだ。


年商100億円以上で目立つCRM,SFAの導入

 企業規模別に「戦略系アプリケーション」の導入率を見ると,より明確な「違い」が出る。要は,企業規模によって導入率に際立った差が出ているのだ。

図3●年商別の戦略系アプリケーション導入状況

 まずSCMは,年商100億円以上の企業の導入率が9.5%,10億円以上100億円未満が3.0%,10億円未満が2.3%となっている。CRMは年商100億円以上が13.9%,10億円以上100億円未満が7.1%,10億円未満が7.0%。SFAは100億円以上が17.2%,10億円以上100億円未満が8.5%,10億円未満が3.1%となっている。CTIは年商100億円以上が12.6%,10億円以上100億円未満で3.9%,10億円未満が7.0%となっている。

 ハードウエア,インフラは低価格,景気回復で導入が進んだが,「戦略系アプリケーション」の普及は,オフコン時代と比べても,あまり進歩していない。しかも,企業規模による戦略的アプリケーション導入に対する温度差が歴然と存在する。その理由は,ITを「経費」としてみる中堅・中小企業と「投資」と見る大手中堅・大企業の差にほかならない。多くの中堅・中小企業は,結果がすぐ反映されるITにしか,お金を出せないのだ。

 次回からは,サーバーOSを3回に分けて取り上げたい。

 なお,調査の概要をご覧になりたい場合は,第1回をご参照下さい。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノーク・リサーチ代表。矢野経済研究所を経て1998年に独立し,ノーク・リサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意とする。