在庫を無償預託して安定供給


●在庫保証制度の仕組み。リアルタイムで販社の販売データを吸い上げ、「売った分だけ」代金を徴収する
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 生産面で果敢な投資を行う一方で、販売面では業界慣習にならわぬ新しい仕組みで徹底した効率化を図る。その1つが販社に無償で在庫を預託する「在庫保証(在保)制度」だ。

 薬価の安いジェネリック薬は利幅も小さく、卸は積極的に扱わない。そこでジェネリック薬メーカーの多くは、中小の販社を独自に組織している。大洋薬品も約200の販社を抱えるが、販社に対しては1.2~1.5カ月分の在庫を無償で預託し、販社が医療機関に販売した時点で売れた分だけの対価を請求する。これが在保制度だ。いわば「富山の置き薬」方式であり、在庫リスクを販社に負わせないことで十分な流通在庫を確保し、医療機関の需要に即応して製品を安定供給している。

 インターネットを使った販売管理システムを導入し、販社がシステムに販売品目や数量を入力すると、大洋薬品が代金を請求する。この販売データは、生産や原材料調達の計画立案のうえで有効な情報となる。また販売データから各販社への補充数量を算出して月1回配送センターから出荷する。販社に十分な在庫が確保されていて緊急補充の必要がないため、物流コストも低減できる。

 在保制度を導入したのは1998年のことだが、「当初は販社から強い抵抗があった」と新谷社長は話す。医療機関への取引明細をメーカーに把握されると、将来的に取引を奪われるのではないかという懸念があったからだ。そのため当時400あった販社の半数は大洋薬品との取引を打ち切った。

IT活用で少ない人材を効率活用

 5億円を投じたオンラインシステムも、稼働当初はトラブルが相次いだ。しかし、現在では在保制度は販社の経営安定に貢献することが証明されただけでなく、「薬を安定供給するシステム」として医療機関からも高い評価を受けている。万が一副作用が出た際にも、大洋薬品側で納入先の医療機関を調べて迅速に連絡できる。

 積極的なIT(情報技術)活用も、コスト削減に大きく寄与する。製薬メーカーはMR(医薬情報担当者)を通じて、薬の使用法や効用に関する情報を医師に提供し、副作用発生などの情報を医師から吸い上げている。大手新薬メーカーは1000人規模、ジェネリック薬でも大手は300人以上のMRを抱えている。これに対し、大洋薬品のMRはわずか50人。ジェネリック薬のほとんどは既に10年以上使われており、医師も使用法を熟知し、未知の副作用が出る確率も極めて低いため、新薬に比べ情報提供の必要性が低いからだ。

 大量のMRを全国に配置する代わりに、大洋薬品ではインターネットを利用した医薬情報システム「TAIYO DI−NET」で、全製品の情報を提供している。インターネットによる情報提供は他社も行っているが、大洋薬品は溶出性や開封後の安定性など他社が公開していない詳細データまで提供し、専門誌のアンケートで「最も情報提供が行き届いた会社」として評価された。「忙しい医師はMRと会う時間を取りにくい。ネットなら必要なときに情報がすぐ手に入ると医師からも評判がいい」と統括製造販売責任者の光松伸輔部長は話す。

 数少ないMRは、副作用などのトラブルが出た場合に、2時間以内に病院に駆けつけられるよう全国に配備されている。支店、支社はなく、直行直帰体制の勤務で、携行したノートパソコンから業務報告を行っている。


新谷 重樹 社長
あらたに しげき氏●1964年南山大学経済学部卒業後、大洋コンクリート入社。67年大洋薬品工業の前身である中野薬品工業に入社し、74年代表取締役社長に就任。写真左が新谷社長で、右がポーター教授(ポーター賞授賞式で)。

在庫が競争力を生み出す

 新薬メーカーは特徴ある製品を開発すれば世界中に販売機会を拡大できる。しかし後発品であるジェネリック薬は大型商品も作れないし、特徴も出せない。コストを下げて何でも作り、医療機関が必要とするものすべてを、他社よりも高くない値段で提供するというところでしか競争できない。だから製造に徹し、生産設備を拡充してものづくりの力を磨くことが唯一の競争力となる。そういう面で、トヨタ自動車の経営手法に見習うべき点は多い。

 トヨタと大きく異なるのが在庫に対する考え方だろう。当社にとって在庫は悪ではない。生産ラインでは1年分の在庫をまとめて作り置きするし、販社には潤沢な流通在庫を保有し、医療機関に安定供給できる体制を整えている。低金利の今日、在庫にかかる金利は相対的に安く、それによって実現できる生産や物流プロセスでのコスト削減効果のほうが大きい。

 今後ジェネリック薬の市場は拡大が予想されるが、競争も厳しくなる。数千億円の売り上げを持つ外資メーカーや、新薬の開発力が弱体化した中堅メーカーが参入するだろう。こういったなかで頭一つ抜けた存在であり続けるために、収益性が高く設備投資に積極的であるという現在のスタイルにさらに磨きをかけていく。(談)