=== (前編を読む) ===

 2006年4月1日から開始した「ワンセグ」を積極的に展開している日本テレビ。メディア戦略局メディア事業部の佐野徹氏に,ワンセグ放送の取り組みとサービス内容について聞く,後編である。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)


---具体的に,どのような番組を提供していますか?



図2 プロ野球放送に連動するデータ放送サービス
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 具体的なコンテンツ内容としては,まず野球中継があります(図2)。スポーツのライブ中継はワンセグにとても適したコンテンツです。ワンセグ対応の携帯電話機でテレビを点けると,すぐに中継映像の下部(データ放送エリア)に現在のストライク・ボール・アウト,スコアーボードを表示するようにしています。さらにデータ放送エリアを下にスクロールすると,打順なども表示します。

 会社帰りの駅で2~5分の待ち時間を使ってテレビを点けたとき,5回表で4対4の同点で,2アウト,1ストライク,2ボールという情報が最初に表示されるわけです。つまり,テレビを点けたらすぐに現在の状況が分かります。これは,番組連動のデータ放送部分を使って情報を逐次更新することで実現しています。

 先ほど(前編参照)も言ったように,放送と通信をスムーズに連携させ,かつ各々の得意分野を利用することで,ユーザーに優しいサービスを提供することができたわけです。放送の特性であるPush型のデータ放送機能を利用することで,ユーザー操作を介さずに,ストライク,ボール,アウトなどの情報を送っています。もし,これをインターネットなどの通信を利用して提供した場合,Pull型ですのでユーザーがアクションを起こさないと最新情報を取得して表示できません。仮に,ユーザー・アクションを起こさないでも済むようなアプリケーションを作ったとしても,常にパケット料金が発生します。

 さらに,ピッチャーとバッターの過去の対戦成績といった情報も,その場面(誰が打席に立っていてピッチャーは誰か)ごとに変わって行きます。これらの情報も更新する必要がありますから,データ放送によって配信し更新しています。

 一方,各選手とはいったいどんな選手なのか,各選手のプロフィールなど,全12球団の情報を「選手名鑑」として提供し,シーズン成績などの情報を「ランキング」でも提供しています。これらはデータベースに格納されていますので,インターネット側のコンテンツとして用意しています。この「選手名鑑」と「ランキング」の2つの情報を視聴する場合は,アイコンをクリックすると通信機能を使って取得する,1次リンク・コンテンツ(「第2回 ワンセグ放送のサービス・イメージ」の図3参照)として提供しています。

---野球放送以外では,どんな番組を提供していますか。ほかとは違った特徴が出ているものがあれば,それを教えて下さい。



図3 リクルートの「HOT Pepper Pockets」と連携して地域別の飲食店情報やクーポンを提供する,番組非連動型コンテンツ「日テレグルメ」
 特徴的なのは「日テレグルメ」というコンテンツでしょう(参考:報道発表)。5月22日からワンセグの非連動型コンテンツとして提供しているもので,リクルートのサービスである「HOT Pepper Pockets(ホットペッパーポケット)」と連携して,地域別の飲食店情報やクーポンを提供するサービスです(図3)。

 この「日テレグルメ」は,日テレメニューの中に設置してありまして,データ放送の1次リンクとして提供しています。このサービスは,放送の地域性や情報の地域性を重視した放送・通信連携サービスですので,現在は関東圏の情報しか提供していません。将来は情報番組と連動した「日テレグルメ」の提供も検討しています。

 このほか,番組連動サービスとして,「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」や「ザ!鉄腕!DASH!」,「ギャルサー」などでも提供しています。

 さらに,6月9日に始まったサッカー・ワールドカップについても,試合結果速報や現地からのリポートなど,日本テレビならではのデータ放送コンテンツをお届けしています。もちろん,日本テレビでの中継時には,番組連動サービスを提供します(報道発表)。

 番組連動のこういったコンテンツがない時間帯でも,ニュースや天気予報,JR運行情報,占いなど,常時非連動コンテンツを提供していきます。また,「番組グッズ」,「第2日本テレビ」,「着うた」,日本テレビの公式サイトへのリンク「My 日テレ」など,インターネットと連携したサービスを提供しています。

---ワンセグ放送に対する期待は?

 もちろん,ワンセグ放送サービスを始めることによって,いろんなメリットがあります。テレビへの接触機会の拡大に伴うメリットに加え,特性を活かしたさまざまなビジネスを検討していく予定です。新しい収益のスタイルとしては,簡単に整理しても3つのパターンが想定されます。

 1つは,着うたや壁紙ダウンロードなどのデジタル・コンテンツとの連携。2つめは,モバイル・コマースとの連携。そして3つめは,新しい広告商品の提供ですね。

 ワンセグ放送対応の携帯電話機は,いろいろな放送・通信連携ビジネスを可能にしますから,すぐにでも実施できそうなものも存在しています。しかし,この3つについてバランスよく成立させることが重要だと思っています。端末が普及していない現状で,バランス感覚を欠いて進めていくことはナンセンスだと思います。ですから,現在はこの3つの収益モデルをバランスよく成立させるために,バランス感覚を養っている段階で,色々な取り組みを試している状況です。

---今後の課題・問題点は何でしょうか?

 端末の普及をより一層進めていくことが重要だと思っています。

 そして,ふと暇になった時に日テレを見ようと思っていただけるコンテンツ・サービスを視聴者目線で制作し,提供していきたいと考えています。

=== (前編を読む) ===