キャッシュ・フロー計算書の構造(2)フリー・キャッシュ・フローの概念制度上のキャッシュ・フロー計算書には出てこないが,フリー・キャッシュ・フロー(FCF)という重要な概念を説明しておきたい。新聞等でも頻繁に目にするようになった重要な概念であるが,正しく理解されていないことが多いので,この機会に是非理解しておいて欲しい。 フリー・キャッシュ・フローの定義は以下の通りである。
フリー・キャッシュ・フローというと,この式そのままに「フリー・キャッシュ・フローとは,営業C/Fと投資C/Fの合計である」と言われることが多い。しかし「合計」と言われるからか,正しいイメージがつかめない方が多いようだ。 前回の「キャッシュフロー計算書の構造(1) 」で説明したように,典型的には営業C/Fはプラスであり,投資C/Fはマイナスだ。従って,以下のようにとらえた方がイメージをつかみやすい。
この式の意味するところは,日々の営業でキャッシュを獲得し,図1左側の活動,すなわち明日の仕組み作りのためにキャッシュを使う。それで手元に残った正味のキャッシュ・フローがフリー・キャッシュ・フローということだ。手元に残ったから,自由に使える。これが「フリー」と言われる所以である。
企業におけるキャッシュの循環サイクルは,1.「右側の資金提供者から資金を調達」,2.「資金を仕組み作りのために投資」,3.「仕組みを使って日々のキャッシュを稼ぐ」,4.「稼いだキャッシュを資金提供者に還元する」となる。右側の資金提供者に関わる部分が財務C/F,左側の投資の部分が投資C/F,日々の正味のリターンが営業C/F。営業C/Fと投資C/Fの正味の合計がフリー・キャッシュ・フローとなる 自由に使えるといっても,会社が好き勝手に使えるということではない。図1のモデルからも分かるように,フリー・キャッシュ・フローは資金提供者に対する還元原資だ。すなわち,「フリー」とは,資金提供者である株主と債権者にとって「フリー」なのである(注1)。
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| (単位:百万円) |
| 平成13年 3月期 |
平成14年 3月期 |
平成15年 3月期 |
平成16年 3月期 |
平成17年 3月期 |
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| 営業C/F 投資C/F |
1,108,831 △1,047,074 |
759,149 △954,031 |
1,329,472 △1,385,814 |
2,186,734 △2,216,495 |
2,370,940 △3,061,196 |
| FCF | 61,757 | △194,882 | △56,342 | △29,761 | △690,256 |
| 財務C/F | △148,930 | 348,005 | 33,555 | 242,223 | 419,384 |
このように,キャッシュ・フロー計算書は,P/LやB/S以上に,その会社のお金に対する姿勢を写し出す。そして,シャープやトヨタ自動車から学び取れることは,成長企業ほど「お金の節約」ではなく,「お金を使うこと」に積極的だということである。お金をかけないところから富は生まれない。コスト削減だけでは,明日はないのである。
製造現場における徹底したコスト管理の一方で,こういう一面もあることを忘れてはならない。
(注1)債権者に対する還元である元本と利息の支払いは固定的であるので,フリー・キャッシュ・フローの増加分はすべて株主に帰属する。このことから,フリー・キャッシュ・フローの増加は理論上の株主価値の向上につながる
(注2)ジャック・ウェルチ氏や稲盛和夫氏も,これに類するフレーズを自身の著書で述べている
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■金子 智朗 (かねこ ともあき) 【略歴】 コンサルタント,公認会計士,税理士。東京大学工学部卒業,東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。日本航空株式会社情報システム本部,プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント等を経て独立。現在,経営コンサルティングを中心に,企業研修,講演,執筆も多数実施。特に,元ITエンジニアの経験から,IT関連の案件を得意とする。最近は,内部統制に関する講演やコンサルティングも多い。 【著書】 「MBA財務会計」(日経BP社),「役に立って面白い会計講座」(「日経ITプロフェッショナル」(日経BP社)で連載)など。 【ホームページ】 http://www.kanekocpa.com |