図1 ○×商事が営業用に構築を予定しているシステムの構成と責任範囲
図1 ○×商事が営業用に構築を予定しているシステムの構成と責任範囲
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表1 インターネットへ接続するのに使うアクセス回線の比較
表1 インターネットへ接続するのに使うアクセス回線の比較
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高橋くん:
営業一部のIT推進委員。営業マンとして働く一方,システム部と協力して部内のネットワーク・システムの面倒を見ている。
島中主任:
システム部主任。社内ネットワークを運用管理する中心人物。各部署のIT推進委員からの声を社内ネットに生かすよう活動している。

 この連載では,架空の企業を舞台に企業内ネットワークの運用管理を誌上体験する。今回は,営業用のローカル・システムに採用する機器やソフトを選び,構築するまでを見ていく。

 情報システム部の島中主任と営業一部のIT推進委員である高橋くんは会議室の一室で構成図を前に打ち合わせ中。今日は,実際に導入する設備や機器を検討するのだ。

島中:前回は,営業用システムの構成と役割分担を決めたよね。覚えているかな?

高橋:はい。図1[拡大表示]にまとめてきました。新しく導入するのはインターネットへのアクセス回線と,それに伴うファイアウォール,ルーター,そしてサーバーです。基本的に運用を島中主任の情報システム部が担当する格好になっていたと思います。

アクセス回線の特徴をつかむ

島中:じゃあまずは,インターネットへのアクセス回線から検討していこう。

高橋:実は,あらかじめどんな回線がいいのかちょっと調べてきたんです。この表を見てもらえますか?(表1[拡大表示])

島中:どれどれ。

高橋:僕は,このADSL*サービスがいいと思うんです。ビジネス向けのメニューもあるみたいだし,回線速度も上り5Mビット/秒,下り47Mビット/秒って速いんです。しかも,プロバイダの料金込みでとっても安いんですよ! ほかにもFTTH*サービスと専用線サービスっていうのがあって,FTTHの方は100Mビット/秒や1Gビット/秒と速いんですけどちょっと料金が高いんです。専用線に至っては,遅いのに高いから話にならないですよね。やっぱり安くて速いADSLがいいと思うんです。

島中:ADSLは確かに安いけど,本当にそれで十分かどうかを一つずつ確認していこうか。

高橋:ええっ,こんなに速くて安いのになにか問題があるんですか? そういえば,全社インフラの回線ってどれくらいの速度なんだろう?

島中:全社インフラは,2Mビット/秒の専用線でインターネットへ接続しているよ。

高橋:えっ,そんなに遅い回線を使っているんですか?

島中:確かに,そろそろ速い回線に切り替えたほうがいいという話は出ているんだけど,全社インフラだけになかなか実績のないものには手が出せないんだよ。営業用のシステムにADSLやFTTHを使うにしても,サービス・レベル*をきちんと把握したうえで利用しないとね。その実績を全社インフラにも生かせたらいいとは思うけどね。

高橋:なんか,実験台にしようとしてませんか?

島中:いやいや,ちゃんとやるから大丈夫だよ。

安定性と上り速度からFTTHを選択

島中:で,高橋くんが選んだADSLなんだけど,回線の上りと下りの意味はわかってるかい?

高橋:もちろんわかってますよ。実は,僕が自宅で使っているのもADSLなんです。ちゃんと快適に使えてますよ。だから大丈夫です。

島中:それが大丈夫じゃないんだな。高橋くんが家で使うのと,サーバーでサービスを提供するのとでは上りと下りの考え方が逆になるんだ。高橋くんがインターネットを使う主な用途は情報収集だよね。この場合,Webサーバーからパソコンにデータをもってくる下り方向が速ければ速いほど快適に利用できる。パソコンから常に情報発信するわけじゃないから,上り方向はそれほど速くなくてもいい。ADSLはこうした用途に適しているんだ。でも,同じ環境のままパソコンとサーバーを置き換えてみると困ったことにならないかい?

高橋:サーバーを置くとなると常に情報を発信する必要があるから,上り方向の速度が重要になるんですね。すると…,ええっ,たったの5Mビット/秒になっちゃうんですか?

島中:そのとおり。さらにADSLは,局からの距離で速度が大幅に変化してしまう。カタログに書いてある速度で通信できることはまれなんだ。その点FTTHは局からの距離に関係なく,上りも下りも100Mビット/秒で安定的に通信できる。だから今回はFTTHを使うことにしよう。

 ○×商事の全社インフラ用は専用線でプロバイダと接続している。○×商事がインターネットを導入した当時はまだADSLやFTTHといったサービスが少なかったこともあるが,会社のホームページやメールが快適に使えることを第1の目的として,コストをかけてでもほかのユーザーのトラフィックに影響を受けない帯域保証型のサービス*である専用線を選択した。

 今回のローカル・システムについても,アクセス回線の速度と品質とコスト,さらにその回線を使って提供するサービス・レベルを検討する必要がある。一般的に,サービス・レベルと料金は相関関係にある。高いサービス・レベルの回線は料金が高く,サービス・レベルの低いサービスは料金も低い。これに速度を併せて考えなければならない。

 今回のローカル・システムは,ダウンロード・サービスを提供するため回線速度は速いほどよい。一方,代理店へのサービス・レベルとしてはシステム・ダウンが許されないわけではなく,帯域保証も必要ない。そこで,高速でコストの安いFTTHが最善の選択肢だといえる。


●筆者:佐藤 孝治(さとう たかはる)
京セラコミュニケーションシステム データセンター事業部 東京運用監視課・責任者
社内,社外のシステム・インフラ導入業務を経て,現在はデータ・センターの構築・運用管理に従事している。

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