2006年5月にITU-T(国際電気通信連合 電気通信標準化部門)で,イーサネットOAMという勧告(Y.1731)が承認された。OAMとはoperation and maintenanceの略で,ネットワーク装置の運用・保守で必要となる技術のこと。基幹ネットワークで使われているATMやSDHといったプロトコルにはOAMが規定されているが,これまでイーサネットにはなかった。イーサネットOAMとは,どういったものなのかをNTTネットワークサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト 主任研究員の太田宏氏に聞いた。

---NGNでのイーサネットOAMの位置づけは?

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 NGNはIP中心のパケット・ベースのネットワーク。イーサネットは光伝送レイヤーの上で使われる技術の一つになる。

 ただキャリアが使うとなると,現状では信頼性が足りていない。現在も広域イーサネットのサービスでは,個々の装置に対してIP上で動作するSNMP(機器の状態を監視したり制御するためのプロトコル)を使って状態を調べたりしているが,レイヤー2の状態はわからない。イーサネットOAMによって,レイヤー2において障害が起こったことを自動検出し,障害がどこで起こったかを分析したり,本格稼働前の事前チェックができるようになる。

---キャリアにとってOAMを標準化することのメリットは何か。キャリアはこうした標準化された技術を望んでいるのか。

 スイッチそのもののコストよりも運用コストの方が重くなっているので,キャリアはイーサネットOAMがほしい。故障時に素早く対応でき,保守コストも抑えられる。保守コストが安くなればサービス料金を抑えられるので,ユーザーも間接的にコスト・メリットを受けられる。

---ベンダーが独自技術でOAMを実現してもよいのでは?

 ベンダー独自だと,キャリアごとの要望に対応してくれるかどうか疑問が残る。またキャリアはリスクヘッジという点で,複数ベンダーの装置で構成したいと考えるものだが,小さなキャリアだとベンダーに任せてしまいがち。そうなると,ベンダーの言いなりになって,ほかのベンダーに乗り換えられなくなる。このような実情を考えると標準化することに意義がある。

---イーサネットOAMは,ITU-TではY.1731として,IEEE(米国電気電子技術者協会)では802.1agとして標準化が進んでいる。両者の内容に違いはあるのか。

 標準化している範囲が若干異なる。ITU-Tは故障管理と性能管理の両方を標準化しているが,IEEEは故障管理だけだ。

---なぜそうした違いがあるのか。

 IEEEはもともとLAN技術の標準化が目的だったので,キャリア・グレードで必要となるOAMという考え方がなかった。故障管理については標準化するが,性能管理については必要かどうかわからないという考えのようだ。また性能管理は実装すると処理が重くなってしまうので,標準化しても実装が進むか,あるいは市場に受け入れられるかが疑問視された。

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