米Microsoftが開催するハードウエア開発者会議「WinHEC 2006」が,いよいよ米国時間5月23日から米国シアトルで始まる。Windows Vistaの全機能を搭載した評価版「Beta 2」が配布されるこのイベントの目玉を,Microsoftが配布するカンファレンスのアジェンダ(日程表)などから予測してみよう。

 Windows Vistaについては,評価版がこれまで何度も公開されていることや,製品版を11月までに完成させる必要があることなどを考えると,「まだ誰も知らないWindows Vistaの新機能」がWinHEC 2006で明らかになる可能性は低い。むしろ,これまで「Windows Vistaに載せます」と口約束してきた機能が本当にWindows Vistaに搭載されるかどうかが,WinHEC 2006の焦点であると言える。現在で流通しているVistaの評価版には,未搭載の機能があるからだ。

「ハイブリッド・ハードディスク」の実物は登場するか?

 例えば,評価版に未搭載の機能の中で,筆者が最も期待しているものの1つが「ハイブリッド・ハードディスクへの対応」である。「ハイブリッド・ハードディスク」とは,ハードディスクとフラッシュ・メモリーを組み合わせたハードディスクのこと。昨年の「WinHEC 2005」で,デモを交えて機能が紹介された。

 一般にハードディスクよりもフラッシュ・メモリーの方が,消費電力が低く,読み出し速度が速い。そこでWindows Vistaでは,ハードディスクよりもなるべくフラッシュ・メモリーを使うようにすることで,「省電力」や「OSやアプリケーションの起動の高速化」を実現する。

 例えば,頻繁に読み出されるファイルをフラッシュ・メモリーに書き込んでおくようにして,なるべくハードディスクを使わないようにする。特に,OSの起動時に同時に起動する「スタートアップ・アプリケーション」のファイルをフラッシュ・メモリーに書き込んでおけば,システム全体の起動時間を大幅に短縮できる。

 また「休止状態」からの復帰も高速化する。Windows XPではシステムが「休止状態」に入ると,その時点でのメモリーの内容をハードディスクにコピーしている。これに対してWindows Vistaでは,休止状態に入った時のメモリーの内容のコピー先がフラッシュ・メモリーになる。こうすれば再起動も高速化するわけだ。

 非常に期待できる「ハイブリッド・ハードディスク」だが,最大の問題点は「実物がまだ無い」ことである。昨年のWinHEC 2005では,韓国Samsung Electronicsが2006年末までに製品を出荷すると発表された。しかし,実物は登場せず,ハードディスクにフラッシュ・メモリーのボードを接続した「デモ環境」が展示されていただけだった。今回のWinHEC 2006では,その実物が見られるかどうか,また本当にWindows Vistaの出荷に間に合うかどうかが見所になるだろう。

あまり想像したくない「逆の意味での隠し球」

 筆者が恐れているのは,「逆の意味での隠し球」がある可能性だ。つまり,これまで「Windows Vistaに搭載します」と言っていた機能が,ある日こっそり隠されて,無かったことにされてしまうことである。

 例えば去年のWinHEC 2005には「Next Generation Secure Computing Base(NGSCB)」という「逆の意味での隠し球」があった。NGSCBとは2003年の「PDC 2003」で発表された,Windows Vistaに搭載される予定のハードウエア・ベースのセキュリティ技術の総称である。

 昨年のWinHEC 2005に参加した筆者は,NGSCBという言葉が全く聞かれなくなったことを不思議に思い,記者会見でWindowsの開発責任者であるJim Allchinプラットフォーム&サービス部門担当共同プレジデントに「今回のWinHEC 2005で発表された『Secure Startup』というハードディスク暗号化機能は,NGSCBのことですか?」といった質問をした。ここからは懺悔になるのだが,英語があまり得意ではない筆者は,Allchin氏の返答を完全に聞き取れなかった。ただ,Windows Vistaに搭載されるハードウエア・ベースのセキュリティ技術はSecure Startupぐらい---ということだけは理解できた。

 筆者は「無くなったものは仕方ない」と思って,この件を記事にしなかったのだが,目ざとい米国のメディアはこの質疑応答を基に「MicrosoftがNGSCBを断念」といったニュースを執筆したのだった。そのため筆者は,米国発のニュースを読んだ編集長から「特オチ」(自分の媒体がニュースで後れを取ること)を叱責される結果になった。

 やや話が脱線したが,「逆の意味での隠し球」は気付くのが難しい。だが,それを白日の下にすることは、メディアの重要な役割だと言えるだろう(その意味で昨年の筆者は「敗北」だった)。

 Windows Vistaは「機能を強化する」ことよりも「納期に間に合わせる」ことが優先されているのが現状である。今年のWinHEC 2006でも「逆の意味での隠し球」が出てくる可能性は高い。米国Windows ITPro MagazineのPaul Thurrott氏も指摘しているが(現時点で判明した「Windows Vistaの欠点」を暴く),「仮想フォルダ機能」の消滅がWinHEC 2006で公表される可能性もある。

PCメーカーの視線は既に「その次」に

 もちろんマイクロソフトとしては,断念した機能をそのままにするつもりはないだろう。Windows Vistaではダメだったとしても,その次を狙ってくる。そうなると今度は,Windows Vista Service Pack 1(開発コード名:Fiji)やWindows Vista R2(開発コード名:Vienne)の動向が気になるところだ。今回のWinHEC 2006でも「Windows Vista and Beyond」といったタイトルのセッションがいくつも予定されているので,この辺りの情報の公開も,大いに期待できるだろう。

 ITproでは,ベテラン記者を2名WinHEC 2006に派遣している。また「日経パソコン」による速報もITproに掲載される予定である(ちなみに筆者はお留守番)。WinHEC 2006の期間中は,ITproによる速報や解説に期待して頂きたい。