無線LANを使って内線通話を実現するOFFICE FREEDOMは,技術的にはNTTドコモのPASSAGE DUPLEと非常に類似したソリューションである。ただし,OFFICE FREEDOMには後発であるがゆえに性能や機能面でいくつかの優位点がある。

 例えば,対応端末のE02SAとFOMA N900iLを比較した場合,無線LAN規格としてN900iLが最大11Mビット/秒のIEEE802.11bだけに対応しているのに対して,E02SAは同11bに加えて最大54Mビット/秒の同11gにも対応している。

BREWとiアプリの違いで
業務アプリの活用に差

 業務利用で差が生まれる最大のポイントは,KDDIのBREW(binary runtime environment for wireless)とNTTドコモのiアプリという,アプリケーション・プラットフォームの違いにある。

 BREWはiアプリと比較すると,アプリ容量に制限がなく業務アプリを開発する際の自由度が高い。また開発した業務アプリが端末のネイティブ機能と連携することもできる。これはKDDIの認定を通らないとアプリを配布できないという,セキュリティ確保手段があるために可能になっている。NTTドコモのiアプリにはこうした仕組みがなく,セキュリティ確保のためにネイティブ機能との連携が制限されている。これにより無線LAN機能をBREWで実装した業務アプリから使ってデータ通信したり,さらにネイティブ機能を組み合わせたソリューションを実現できる。

 OFFICE FREEDOMの優位点について,KDDIはこう説明する。「無線LANを使ったOFFICE FREEDOMのソリューションで提供したいのは,音声サービスだけではない。au携帯電話が搭載しているBREWを使ったさまざまな業務アプリケーションが開発されてきている。これら既存のアプリケーション資産を継承しつつ,これをベースに新たな無線LAN内線向けのアプリケーションを開発するなどして,音声通話に加えて業務システムとの連携を実現するソリューションを提供したい」(KDDI モバイルソリューション事業本部 モバイルソリューション商品開発本部 商品企画部 部長の中島昭浩氏)。

 もう一つ,OFFICE FREEDOMには特長がある。KDDIは携帯電話が実装するOFFICE FREEDOM向けの無線LAN内線アプリケーションに2種類の形態を用意する点である。いずれもBREWアプリで実装する。一つは,KDDIが汎用的なSIP(session initiation protocol)クライアント・アプリを提供する「標準型」である。SIPベースのVoIP内線電話システム向けに,基本機能を提供する。もう一つは,各社のIP-PBXの仕様に対応した内線アプリケーションを提供できる「カスタマイズ型」。KDDIのパートナが,自社のIP-PBXの機能などを最大限に生かした端末の内線アプリを開発できる。

富士通はマルチキャリア対応の内線電話システム
ユニアデックスは通話以外のソリューションに意欲

 実際にOFFICE FREEDOMを利用したいユーザーは,KDDIが認定したパートナ企業である富士通あるいはユニアデックスからソリューションの提供を受ける。両社が企業の利用目的に適したシステムを提案し,導入の支援を行う。KDDIからの直販は行わない方針である。

 富士通は,SIPに対応するIP-PBXシステム「CLシリーズ」および「IP Pathfinder」に無線LAN対応au携帯電話に対応させて,OFFICE FREEDOMを実現する。このほか,国内で初の試みとしてKDDIとNTTドコモのマルチキャリア対応の無線LANデュアル端末システムを提供すると言う。

 ユニアデックスは,販売中の無線LANスイッチやSIPサーバーなどを組み合わせた内線ソリューション「AiriPワイヤレスIP電話ソリューション」の端末として,E02SAを追加する。これにより,E02SA端末がオフィス内においては無線LANを使った内線電話およびイントラネット端末として利用でき,音声とデータの共存を実現する。また将来的には,オフィス内では無線LANアクセス・ポイントを,外出先ではGPS機能を用いて位置情報を取得し,社員の所在位置を確認できる機能や,社内電話帳システムとの連携など,ユニアデックス独自が開発する業務ソリューションも合わせて提供していく予定があるという。

無線VoIP電話を簡易に導入できる
無線LANアダプタ「OFFIMO」も提供

写真1 OFFICE FREEDOMを手軽に導入できる「OFFIMO」
写真1 OFFICE FREEDOMを手軽に導入できる「OFFIMO」
無線LAN上のVoIP通話と既存のPBX/ビジネスホン内線システムを仲介するアダプタ。
※図をクリックすると拡大図を表示します。

 OFFICE FREEDOMをもっと手軽に利用したい,あるいは小規模でまず試験的に使いたいというニーズに向けては,KDDIネットワーク&ソリューションズが対応製品を発表している。7月から発売予定の「OFFIMO」(オフィーモ)がそれである(写真1)。OFFIMOは,E02SAで使えるOFFICE FREEDOM用の無線LANアダプタである。

 OFFIMOは既存のPBXやビジネスホンに接続し,さらにOFFIMOに無線アクセス・ポイントをつなぐ。OFFIMOが無線VoIPのSIPプロトコルとPBX/ビジネスホン内線との変換を行い,無線LANを使った内線電話を実現する。内線通話のほか,通常の固定電話と同様に保留転送や代表番号での着信も可能になる。

 7月時点では,アナログ・インタフェース仕様の「OFFIMOシリーズA」を提供する。10月にはISDN基本インタフェース仕様の「OFFIMOシリーズB」を追加する計画である。

 OFFIMO を使えばIP-PBXを新たに導入せずにOFFICE FREEDOMの無線LAN内線電話システムを構築できるため,低コストで簡易にな導入が可能になる。「音声通話だけ無線LANの内線システムで使えればいい」といったケースでは有効である。■

(中村実里=ライター)

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