[画像のクリックで拡大表示]

 ITU-Tは2006年4月20~21日,通信事業者の次世代IPネットワーク「NGN」のワークショップ「Workshop on NGN and its Transport Networks」を開催した。2006年1月に欧州の標準化団体であるETSIがNGN標準のリリース1を発表。ITU-TはETSIの標準を基にするため,現在リリース1に向けて議論を詰めている段階にある。

 ITU-TでNGNの標準化を担当するスタディ・グループの一つであるSG13の副議長を務めるNTT次世代ネットワーク方式SEプロジェクト主幹研究員の森田直孝氏に,今回のワークショップと標準化の動向について聞いた。

---今回のワークショップの目的は?

 NGNというと制御やネットワークの上位の部分がメインに捉えられがちだが,それを支える転送系の部分について一堂に会して全体像を捉えることが目的だ。リリース1として固まっている部分に加え,どんなことができそうかということまで紹介している。

---ITU-Tでの標準化活動は今,どういった状況にあるのか。

 NGNの標準化は欧州の標準化機関ETSI(欧州電気通信標準化機構)が先行しており,ITU-TではETSIでの成果を基に検討を進めている。

 2006年1月にETSIのプロジェクトであるTISPANで,60件の仕様書が作られた。これがリリース1と呼ばれるもの。リリース1には,(1)サービスや機能が必要なのかという要求を書き出す,(2)どういう機能の固まりにするか,そしてその固まりの間でどういうやり取りが必要か,(3)必要なプロトコルを決める---という三つの要素が入っている。

 ITU-Tでの標準作成作業は,TISPANに比べて半年から1年くらい遅れている。TISPANのリリース1における(1)と(2)の真ん中あたりまでに当たる部分を「ITU-T標準のリリース1」として発表する予定。TISPANで決められた内容が中心となるので,ほぼ中身は固まっている。このため,現在はリリース1準拠の機器を作れる段階にあるといえる。

---NGNではエンド-エンドでQoSを確保することが一つの特徴だが,QoSについてはどこまで決まっているのか。

 どのようなプロトコルを使うかはだいたい決まっている。詳しくいうと,アクセス系は現在決まっているものを使えば実現できるが,ネットワークのコア部分(コア・ネットワーク)や,コア同士が連携するときのプロトコルがまだ固まっていない。

 アクセス系から先に決まったのは,トラフィックが混雑する部分だから。一方のコア・ネットワークに関しては,今のところ,余分に帯域を確保しておけば対処できる。コア・ネットワークのQoSが遅れている理由はもう一つある。トラフィックの混み方がどうなるかまだわからないことだ。というのも,ストリーミングを使う「テレビ電話」の利用が増えたとき,それによってトラフィックの混み方(時間帯など)がどう変わるのかまだ予測できないからだ。現在の電話とは異なる混み方になったとしたら,トラフィックの振る舞いも変わってくる。だからコアの部分は遅れている。

---先ほどQoSで一部議論が遅れている部分があるといったが,どういった形で追加されるのか。

 コア・ネットワーク部分のQoSなどの遅れている部分は,今後リリース1の拡張として発表していくか,あるいはリリース2のスコープという位置づけで固めていく。コア・ネットワークのQoSが決まるのはあと1年くらいかかるだろう。

---ユーザーがNGNを用いたサービスを利用し,その変化を実感するのはいつになるのか。

 難しい質問だが・・・,QoSの詳細が固まるのを待って新しいサービスを作るとするなら時間はかかる。ただ,今のベストエフォートに近い形ならもっと早く出せるだろう。いずれにせよコアのQoSが決まってからになるので,あと2~3年は先になるだろう。

---ITU-Tがリリース1を発表するのはいつ頃になるか。

 4月22日~27日に神戸でNGN-GSI(ITU-TでNGNの標準化を担当していたグループFGNGNの後継グループ)の会合がある。ここでリリース1の概要部分を固める。リリース1の発表は7月を目指している。

---リリース2のスケジュールについても教えてほしい。

 リリース2の内容はストリーミングやIP-TVなどになるだろう。発表するまでには1年半から2年くらいかかりそうだ。

■ 関連キーワード
NGN