前回 の終わりで,機械装置などの固定資産を導入するとき,銀行借入金による場合とリースによる場合とでは,どちらが有利かという話をしました。

 中小企業の場合,銀行からみた債務者区分(注1)で「正常先」としてランク付けされない限り,銀行側の融資姿勢にはかなり厳しいものがあり,中小企業としては必然的にリースに頼る傾向があります。窮余の策としてリースを組む場合は,銀行借入金よりも高くつく──と,世間的には認知されています。

「それって,本当?」
 筆者は何ごとも自分で検証してみないことには納得しない性格なので,Excelを使って次の条件でざっと計算してみることにしました。
・機械装置の価額は1千万円
(減価償却は定率法(注2)を採用)
・資金の手当てについては,その全額を銀行借入金(元金均等返済)か,リース(ローン方式)かの選択によることとする
・金利は3%(銀行借入金とリースともに同率とします)
・計算期間は5年に設定
・租税公課等の諸経費は埋没原価になるので考慮せず
 以上の条件でディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法という超難解な方法で計算したところ,リースを組むよりも銀行借入金によって機械装置を購入するほうが,5年間のトータル(税引き後)では7万2千円ほど"お得だ"という結論を得ることができました。俗説は正しいようです。

「ちょ,ちょっと待ってくださいよ,タカダ先生。1千万円で7万2千円の差しかないんですか。わが社は銀行から"要注意先"のレッテルを貼られていて銀行に頭を下げてばかりだけれど,7万2千円くらいならいっそのこと,すべてをリースにしたほうが枕を高くして寝られますよ」
そうかもしれませんね。

 計算過程については膨大な説明を必要とするのでこのコラムでは割愛させていただくとして(注3),ここで重要なのは,読者の会社で利用している情報システムでも7万2千円という値が瞬時に計算され,経営者への判断資料として提供できるかということです。
 せっかく巨額のIT投資を行なったにもかかわらず,システム会社の担当者から「そ,そういうことは,御社の顧問会計事務所に相談してください」と,しどろもどろの答えしか返ってこないようでは,貴社の"IT投資戦略"は失敗です。

 実際には,リースではさらに手数料が金利に上乗せされるので,最終的な損得はリースを組むほうが圧倒的に不利といえます。
 資金繰りが厳しいからリースに頼らざるを得ないというのに,銀行借入金の支払利息よりもリース料のほうが高くつくとなれば,企業の資金繰りを一層,悪化させます。
 安易な気持ちでリースを組むことは,アリ地獄に落ちる恐れがあることを肝に銘じておく必要があります。

 それでもリースを積極的に選択するメリットはあります。たとえば,パソコンや複合コピー機など。
 IT化を推進するにあたって,パソコンは必需品です。会計システムや生産管理システムは当然,パソコンで動作しますし,社内の通信手段としてメールを利用している企業は多いことでしょう。
 いまや社員の数よりも多いとされるパソコンについて,その耐用年数はどのくらいか,ご存じですか?
 法人税法の耐用年数表を見ると,電子計算機(パソコン)は4年,サーバー用のものは5年と定められています。これを法定耐用年数といいます。

 うーん,どうなのでしょう。パソコンは春・夏・秋・冬の年4回,モデル・チェンジが行なわれ,半年も経つと「こいつ,動作が遅いなぁ」と感じたりします。それを4年も使えるか。我慢しても2年が限度といったところでしょう。
 このように,実際に使える年数を「経済的耐用年数」といいます。
 経済的耐用年数が法定耐用年数よりもはるかに短いパソコンの場合,2年サイクルで入れ替えていくのは合理的なIT投資戦略ということができ,この場合にはリースを選択するほうが有利といえます。もちろん,コストはそれなりに高くなりますが。
 それでもリースを選択する場合,その判断基準となるのが「コスト・ベネフィット」です。日本語に訳せば「費用対効果」。コストを上回る効果が期待できるとき,会計のちょっとした専門用語を使わせていただくならば「機会利得がある」と表現することもできます。これらはとても重要な概念であり,これからも頻繁に,このコラムに登場します。
 「でもね,タカダ先生,わが社はWord&Excelと,メール・ソフトしか使わないから,パソコンなんて"中古"で十分なんですよ」
あ,そういうIT投資戦略も「あり」ですね。

(注1)債務者区分とは,銀行の立場から債務者(融資を受ける企業)をランキングしたもの。正常先・要注意先・破綻懸念先・実質破綻先・破綻先などに分類されます。別名,えんま帳。
(注2)定率法で減価償却を行なう場合,購入初年度に多額の減価償却費が多く計上され,次年度以降の減価償却費は逓減していきます。これに対し,毎年一定額の減価償却費を計上する方法を,定額法といいます。
(注3)いずれ,書籍の形で説明しようと考えています。


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■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/