「リンダ」で女性顧客を開拓した一方、最上級カード「ザ・クラス」を刷新して注目の富裕層をがっちり獲得
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購買心理の分析とPDCAサイクルの徹底で販促効果を高める
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顧客の嗜好に合わせて、掲載する情報の組み合わせや訴求ポイントを変える「JCBニュース ユニ・クリップ」
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ビフォー・ アフター

 ジェーシービー(JCB、東京・港)は3年前から、「サイコグラフィック(心理的)特性」に基づいた販促を展開している。顧客一人ひとりの価値観やライフスタイルに合ったキャンペーンや加盟店の情報を提供。クレジットカードの利用額が5%近く上がるとともに、退会率が20%下がる成果を上げた。
 1990年代半ばから、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を推進してきたJCBだが、誰がどの店で買っているかという購買履歴だけでは、さらに効率よくカードの利用を促す情報提供が難しくなっていた。そこで、5000人のアンケートから得られた定性情報と、どんな店でいくら使っているかという定量情報を組み合わせて、顧客の価値観やライフスタイルを類推するシステムを構築した。2005年度からは、顧客がどんな情報を求めているか仮説の精度を高めるべく、「わかりやすさ活動」と呼ぶ風土改革を始めた。

 「クレジットカードの利用額5%増」「会員の退会率20%減」—。JCBは2003年から山口県と沖縄県を含む九州地区で新発想のダイレクトメール(DM)を配布し、これだけの大きな成果を上げた。

 新DMの名称は「JCBニュース ユニ・クリップ」。全会員でほぼ共通だったDMの誌面を見直し、掲載するキャンペーンや加盟店の情報の組み合わせからその表現方法まで、会員一人ひとりの嗜好(しこう)に合わせてきめ細かく変えるようにした。DMのパターン数は最大800万通り以上に及ぶ。「作成コストは従来の倍かかるものの、(収益の拡大によって)補って余りある」と、マーケティング企画部戦略グループマネージャーの門永篤史部長代理は言う。

 九州地区に続いて2005年1月からは、関東・甲信越・東北・北陸の東日本地域で同様のDMを配布した。「ユニ・クリップを配布していない地域と比べてクレジットカードの利用額は4%増え、退会率も20%下がった」(チャネル統括部マーケティング機能開発グループの久保田俊輔氏)

 2005年10月からは、全国47都道府県へとさらに配布対象を広げている。

キャンペーンの見せ方変える

 ユニ・クリップでは、同じキャンペーンの情報を提供する場合も、顧客によって見せ方を変える。

 例えば、ある期間中にJCBのクレジットカードで一定額以上の買い物をすると抽選で温泉旅行が当たるキャンペーンでは、写真にあるように顧客が利用しそうな地域の宿を目立つように紹介した。キャッチコピーも、顧客の年齢や価値観、ライフスタイルの違いによって変えるという凝り様である。

 こうした工夫によって、全会員に同じように訴求していた従来のDMと比べて、キャンペーンへの応募者数は2倍に、期間中の利用額は1.6倍に跳ね上がった。

 新DMの開発において、顧客の価値観やライフスタイルに目を付けたのはほかでもない。顧客がクレジットカードを利用したくなるような情報を提供するためには、「なぜ買うのか」まで踏み込む必要があったからだ。

 それには、年齢や性別といった情報だけで顧客を分類する手法は不十分だった。今や高級な温泉旅館は、年配者に限らず、30代の女性をはじめとする若い世代にも人気がある。顧客の嗜好が多様化している時代に、年齢だけで販促のターゲットを絞っていたのでは、有望な顧客を見過ごすことになりかねない。

8つの価値観で顧客を分類

 JCBは真の購買動機をとらえようと、「嗜好・ライフスタイルモデル」と呼ぶ顧客分類モデルを開発した。 

 5000人の顧客にアンケートを実施し、「本物志向」「楽しさ重視」など8つの価値観と、「自分への投資を惜しまない」「家族を大切にする」など9つのライフスタイルを定義した。約5500万人いる会員をこれらの価値観やライフスタイルのグループに分類してデータベースに蓄積している。

 どのキャンペーンや加盟店はどんな顧客に響くのか。年齢や性別といった「デモグラフィック(統計学的)特性」だけでなく、価値観やライフスタイルという「サイコグラフィック(心理的)特性」まで考慮に入れながら、販促のターゲットや訴求方法を導き出す。データを駆使して科学的に顧客のサイコグラフィック特性をとらえているのは、JCB以外にほとんど例がない。

 ユニ・クリップの全国展開に合わせて、「利用予測モデル」を新たに加えた。過去に利用経験がなくても、今後、利用する見込みの高い業種の加盟店を推奨する顧客分類モデルである。衣料品店を中心に利用する顧客へも飲食店の情報を積極的に提供することで潜在ニーズを掘り起こす。

 これらのモデルを基に、DMを作成する。例えば、飲食店を勧める場合でも、「本物志向」の顧客には高級料亭を、「楽しさ重視」の顧客にはカジュアルな居酒屋を紹介するといった具合だ。