日経BPのコンピュータ・ネットワーク系雑誌は,ユーザー企業のシステム利用事例を紹介する「ケーススタディ」をよく掲載しています。このケーススタディの取材で緊張する質問の1つに,お金の話があります。

 「このシステムの構築にいくらかかりましたか」と聞かれて,細かい金額を教えてくれるユーザーはまずいません。「×億円ぐらいかな」と,大雑把にでも答えてくれれば良い方で,「確認して後で連絡します」とだけ答えて,結局教えてくれないケースもあります。

 とはいえ,記事を読む側にとって「お金がいくらかかったか」は,そのシステムの成否を判断する重要なポイント。そこで,記者はあの手この手で,取材先からお金の話を聞きだそうとするわけです。場合によっては,取材内容から記者が推定し,「開発費用は××円(本誌推定)」という苦しい表現になっていることもあります。

 取材先企業のシステム担当者がお金の話をしたがらない理由は,いろいろ考えられます。例えば,システムを相場より安く構築できたと考えている担当者は,「こんなに安く済んだことが記事になったら,付き合いのあるベンダーに(他のユーザーから値下げ圧力がかかって)迷惑がかかるのではないか」と心配します。逆に,ちょっと高かったと考えている担当者は,「この金額が記事になると,『あの程度のシステムにあんなにお金を使うなんて,ベンダーにだまされてるんじゃないの』などと,面倒なことを言う人が出てくるのではないか」と心配します。どちらにしても,ユーザー企業のシステム担当者にとって「お金」はあんまり触れて欲しくない話題のようです。

 しかし最近,ユーザー企業のシステム担当者が「お金」のことをきちんと答えてくれない理由は,もう1つあるのではないかという気がしています。その理由とは「そもそも正確なシステム開発費用を分かっていないのではないか」です。もちろん,ハードウエアやパッケージ・ソフトウエアの購入費用,システム構築の外注費ぐらいは把握しているでしょうが,要求定義にかかわったエンドユーザーの人件費や,システムのメンテナンスに携わっている運用担当者の人件費などをどこまでシステム開発費に含めるのか,はっきり意識している担当者は少ないのではないでしょうか。

 システムの投資対効果を語るには,導入効果の前にまず正確なコストを算出する必要があります。その上で,何年かけて償却していくかが分かっていなければ,開発コストと導入効果との対応関係を考えることはできません。

 というわけで,ここからは告知になるのですが,。ITpro SMBサイト では,こうした問題意識に基づいてコスト管理,コスト計算をテーマとする講座の連載を開始しました。高田直芳の「ITを経営に役立てるコスト管理入門」 です。

 高田さんは,「ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」などの著作がある公認会計士ですが,原価計算の理論を実践するためのフリーウエアをご自分で開発されるほど,システムにも深い造詣があります。コンサルティング業務でユーザー企業の声を聞く機会も多いそうで,連載では今後,こうした現場の声を参考にしながら,コスト管理,コスト計算の話題を中心に,経営層が身に付けるべき「基礎知識」を紹介していただきます。どうぞ,ご期待ください。