図1 SOAの概要
図1 SOAの概要
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図2 流通業界のサプライチェーン
図2 流通業界のサプライチェーン
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(林 浩一・村上 歴/ウルシステムズ)

 ITの急速な進歩とそれに伴う企業内ITインフラの刷新が進む中で,企業情報システムには業務の変化に迅速に対応する「変化への強さ」が求められるようになった。これはシステム構築時に不可欠の要件として,今後ますます認識されるようになるだろう。この背景には,経営側からシステム側への2種類の要求が強まっていることがある。

 1つは,システム構築にかかる莫大な投資を回収するために,一度作ったシステムをできるだけ長く使い続けたいという要求である。どんなに最新の技術を導入してシステムを構築したとしても,時間とともに時代遅れになることは避けられない。昨今の技術進歩の速度からすると,仕様を決めた時点で陳腐化が始まっているといっても過言ではない。技術が変化してもなるべく使い続けられるようにしておく必要がある。

 もう1つは,ビジネスの変化に伴うシステムの変更に,素早く対応したいという要求である。取引先の拡大,新製品の導入,部署の統廃合といった変化は,ビジネスを進めていく上で絶えず発生する。こうした変化の多くは,今日,システムへの変更なしにはできなくなっている。システムが足かせとなって,ビジネス上の意思決定の機会を逃すわけにはいかない。

 こうした変化への対応力を実現するために,注目されているのがSOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)である。SOAとは「ソフトウエアをネットワーク上の配置や実装に依存しないサービスという単位で用意しておき,複数のサービスの連携によって処理を行うソフトウエア設計の考え方」注1)である(図1[拡大表示])。SOAを活用すれば,次の2つのメリットが得られる。

(1)実装に依存しないので,既存資産の有効活用が可能になる。
(2)サービスの組み合わせでシステムを変更でき,さらにシステム変更の影響範囲が局所的になるので,業務上の変化にシステムが容易に対応できる。

 SOAの考え方自体は古くからあるが,前述の経営側からシステム側への2種類の要求に応えられる方法として,SOAがにわかに注目を集めるようになった。

 本稿では,SOAのコンセプトの下に当社が設計・実装を行った,流通業の企業間電子商取引(BtoB)のためのサプライチェーン管理(SCM)システムを紹介する。業務の変化を見切り,変化に備えるシステムを作るためのSOAの適用指針も示す。

 設計時には,流通にかかわる小売りや卸,メーカーなどの各企業の業務を深く分析し,業務をパターン化したうえでSCMシステムとして実装した。これによって,業務の変更に伴うシステム改修は,パターンの選択,すなわちサービスの選択の変更で済むようになった。このため,取引形態の変更,取引先の増加などにシステムが素早く対応できる。取引先ごとにシステムと端末を用意する必要もなくなる。

 このSCMシステムは,大手小売業や卸などが試行中であり,2005年第2四半期から本格的に各社がサプライチェーン管理業務に利用する計画である。

現在は独自フォーマットが乱立

 まずは流通業界におけるサプライチェーンの概略を示す(図2[拡大表示])。スーパーマーケットに代表される小売業は,複数の店舗の売り場で消費者に商品を販売するビジネスである。小売りからの発注を起点にして,物流網を使ってメーカーの生産拠点から店舗まで商品が届けられる。物流網には卸業者が運営するDC(Distribution Center:在庫機能を持つ物流センター)や,小売りが運営するTC(Transfer Center:在庫機能を持たない物流センター)などが含まれる。

 現在のEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)では,特にEOS(Electronic Ordering System)と呼ばれている受発注業務を中心に電子化したシステムが広く普及しているが,その他の物流や決済にかかわる情報のEDI化は,主に大手企業のみの導入にとどまっている。

 受発注のEDI化は進んでいるといっても,通信プロトコルとして主流のJCA手順注2)は1980年に策定されたもので,通信速度は2400bps(ビット/秒)と遅い。専用ハードは製造中止となりつつあるため,故障時の交換が困難になることが予想される。また,EDIで交換するデータのメッセージ・フォーマットは各小売りの独自仕様が乱立しており,卸やVAN業者は取引相手に応じて個別のデータ変換を行っているのが現状である注3)

 決済など受発注以外の業務はさらに遅れている。卸やVAN業者は各取引先向けのフォーマットと手順に合わせた数百もの通信アダプターを開発しているが,新しい取引先や取引手段の変更,取扱商品の種類の変化などによって,頻繁にシステムを改修せざるを得ない。例えば,商品が変われば,送り先センターや梱包の形態,送付中の温度などの設定が変わってくる。電子化されずにファクシミリで行われている取引もあり,サプライチェーンが各所で分断されるために,仕入計上と請求書の額が合わないといったトラブルがしばしば生じ,その原因を追究するのもままならないという状況にある。

次回に続く


林 浩一(はやし こういち)/ウルシステムズ ディレクター

大阪大学大学院工学研究科修了。富士ゼロックス,日本エクセロンを経てウルシステムズ入社。オブジェクト指向,XML技術を用いた企業間商取引(BtoB),EAI,データベースなどの技術コンサルティングを行うとともに,IT戦略,業務分析などの上流工程のコンサルティングを手がける。現在,両者を橋渡しするSOAコンサルティングを展開中


村上 歴(むらかみ れき)/ウルシステムズ シニアコンサルタント

大阪大学基礎工学部卒。NTTソフトウェアを経てウルシステムズに入社。主に金融,流通,セキュリティなどの分野で技術コンサルティングおよびシステム企画・開発を手がける。現在は,変化するビジネス要求に対応できるシステムを実現するためのツールとしてSOAの展開に注力している