USENの無料インターネット放送「GyaO」の登録者数が500万を突破した(関連記事)。2005年4月25日の開始からわずか8カ月足らずでの500万到達に,正直な話,筆者は驚いた。GyaOがスタートした当時,無料だからといって,ここまで急速に視聴者が広がるとは思わなかった。「GyaO恐るべし」と言わざるを得ない。

 もちろん,この500万という数字は“人数”ではない。GyaOのトップ・ページには「視聴登録者500万人突破!!」と記されているが(12月18日時点),これは延べ人数の話。同一人による重複登録が可能だからだ。利用者が意図的に重複登録しようとしなくても,結果的に重複してしまうこともある。別のパソコンで登録したり,同一パソコンでもいったんCookieをクリアしてしまうと再登録となるのだ。

 例えば筆者の場合は,自宅と会社のパソコンでGyaOに登録した。このため500万人のうちの“2人”は,確実に筆者1人で占めている。USENも「いずれはメール・アドレスなどを頼りに,できるだけ実人数に近い数字を把握したい」とは言うものの,しばらくはこのまま延べ人数で発表していく意向だ。

 確かに,こうしたUSENのあいまいさ(ある意味,意図的な水増し)は是正してもらいところだ。しかしだからと言って,GyaOは大したことはないとは言うつもりはない。500万が実際の人数を表していないとしても,数百万レベルのインターネット利用者が,少なくとも1回はGyaOに興味を示したことに変わりないからである。

 では,このGyaOというインターネット上の無料動画放送が,民放の地上波テレビ放送とどう違うのか。今回は,この点について言及してみたい。

 「広告主から広告料を徴収することで放送コンテンツそのものは無料で視聴者に提供する」。このビジネスモデルからすれば,GyaOもテレビ放送も同じだ。だが,GyaOのような無料インターネット放送がテレビにとって変わるものになるとは思えない。

 言うまでもなく,視聴者の数が圧倒的に違う。GyaOが500万の視聴可能者を集めたとはいえ,テレビの数千万人に比べればまだまだ“ヒヨコ”。その影響力の差は段違いである。それでも,登録者数が増えるにしたがって各方面の注目を集めているのは,インターネットには双方向性というメリットがあるからだ。

 そこに目を付けたUSENは,来年1月から「セグメント別広告」の配信を始める(関連記事)。これは,視聴者の性別や年齢,居住地域といった属性別に,番組内に挿入する動画CMを変えるというもの。広告主がターゲットとする属性を持った視聴者に広告が打てるため,より高い広告効果が期待できるというわけだ。

 ただ,無料放送であるGyaOが登録時に申告してもらっている属性は,たった5項目しかない。性別,郵便番号,生年月,職業,世帯構成の五つだ。「猫が見てても視聴率」などと揶揄(やゆ)されることもあるテレビに比べれば,ずいぶんの進歩と言えるかもしれないが,これだけではまだ十分とは言えない。テレビでも,ドラマやスポーツなど,放映する番組の内容そのもので,ある程度,視聴者の属性は想像できるからだ。

 もちろん,広告主が狙ったターゲットにきちんとリーチできているかどうかの結果を把握できるというメリットはある。だが筆者は,これだけではインターネットのポテンシャルのまだ半分も生かせていないのではないかと感じる。GyaOの広告効果はもっと上げることができるのである。

 例えば,「Amazon.com」などが取り入れている「リコメンデーション機能」と組み合わせる方法。リコメンデーション機能とは,Amazonなどで商品を閲覧したり買い物をした結果から,「あなたには,こんな商品はどうですか?」という「お勧め」が表示されるあの機能である。GyaOがもし,こうしたリコメンデーションと同様の機能を内部で持てば,登録ユーザーがどういう番組を好んで視聴しているかということが一目瞭然に分かるようになる。登録する属性は五つでも,視聴行動から「趣味・し好」が容易に分かるというわけだ。

 このようなリコメンデーション機能に基づく属性把握を,USENは「やる」とも「やらない」とも明言していない。しかし最近,GoogleとAmazonを統合した架空会社を「Googlezon」と呼ぶなど,購買履歴や検索キーワードなどから個人の趣味・し好を把握できるネット上の企業の強さが何かと話題になっている。GyaOの目指す方向が“GyaOzon”であるとしても何らおかしくない。

 実際,USENの宇野康秀社長は「テレビと広告費を食い合うなら事業として失敗する。インターネット放送が新しいメディアに成長すれば,新たな広告市場ができる」と発言しており,テレビ放送とは違った戦略を採る意向だ。GyaOzonのような戦略を一つの選択肢として持っていることは,想像に難くない。

(安井 晴海=日経コミュニケーション 副編集長)

■日経コミュニケーションでは,宇野康秀USEN社長の単独インタビューを含んだ特集記事,「大予測! 通信の未来像」を2006年1月1日号に掲載します。ご興味のある方はぜひご覧ください。