図
[画像のクリックで拡大表示]

 マーケティング・コミュニケーションがIP(インターネット通信手順)化によって様々な影響を受けていて、IPへの過度の傾斜は市場機会や販売機会を失う場合がある。マーケターは常にコミュニケーション・ミックスとチャネル・ミックスを同時に計画する必要がある。これが今回と次回の要旨である。

 簡単な例から説明しよう。筆者は大阪生まれの大阪育ちだからだろう、うどんが好きだ。ある時、テレビを眺めていてカップ麺のコマーシャルを見た。そこに「肉うどん」が映し出された。いよいよ関東でも肉うどんが売られ始めたのかと、早速最寄りのスーパーへ買い出しに行った。ところが、棚には並んでいなかった。「きつねうどん」や「たぬきそば」はあるのに。仕方がないと、別のスーパーへ行った。そこでも肉うどんはなかった。

 部屋に戻って、肉うどんの発売元の顧客サービス窓口を探して電話をかけた。

 「どこで売っているか教えてほしい」

 返ってきた答えは、「分かりません」だった。

コミュニケーション・メディアとは何か?

 こういう例は実は随分とある。商品はあんたが勝手に探せと言っているのと同じである。テレビコマーシャルがコミュニケーションとしては機能していない。米国企業ではどうしているかというと、ストア・ロケーター・サービスと呼ぶサービスを提供する。販売店やそこへの出荷量、店頭の販売量などを把握していて、その情報を元に「○○という商品は××というお店にございます」と案内する。

 流行のSCM(サプライチェーン・マネジメント)が機能していればたやすいはずである。電話をかけてきた見込み顧客の電話番号を参照すれば、その電話番号の最寄りの販売店も簡単に検索できる。CTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)だ。しかし、このやり取りは移動体通信(携帯電話)では難しい。携帯電話では電話番号で最寄りが探せないからだ。ただ、米国の事情は少し違う。携帯の番号もローカライズされている。

 コトラーは、マーケティング・マネジメントで、合わせて55のメディア(媒体)をコミュニケーション・プラット・フォームと称して列記し、それらを5つのコミュニケーション・タイプに区分けしている([拡大表示])。

(1)広告宣伝(advertising)
(2)販売促進(sales promotion)
(3)PRとパブリシティー(public relations and publicity)
(4)販売組織(sales force and personal selling)
(5)ダイレクト・マーケティング(direct and online marketing)

 さて、どのようにしてコミュニケーション・メディアを組み合わせればよいかを例示しよう。日本ではあまり駆使されていない「クーポン」というメディアを使うケースである。

 米国では、製品メーカーも小売りもかなりの量のクーポンを発行、配布している。いったいどれくらいの量が使われているのか。数億枚とも、数十億枚ともいわれ推定値は様々だ。

 また、クーポンには幾種類かの亜流がある。購入時に価格を値引きする場合でも、店頭で値引きするものと、リデンプション(redemption)というリベートを請求するものがある。リベートは現金の場合も景品の場合もあり様々だ。顧客はこのリデンプションのために、住所や氏名、連絡先電話番号などを記入して、クリアリング・ハウスに請求する。つまり、製品メーカーは、顧客がだれか?を知ることが可能になる。日本でもP&Gのパンパース・クラブなどが知られている。

 米国では、このリデンプションで得た大量の顧客情報の活用方法が発達して、データベース・マーケティングという概念が生まれ確立した。

 つまり、顧客情報を得ることで、次にその顧客に向けて働きかけを行うという循環が成り立ち始める。日本企業は一般に、販売促進を目的としてクーポンを発行することは多いが、そのクーポンが使われた後についての深慮遠謀がなさ過ぎる。同じことは、乱発気味のポイント・カードについてもいえる。

 簡潔には、コミュニケーションする相手(顧客)が判明したのだから、相応のコミュニケーション活動を始めればよい。ところが、顧客とのコミュニケーションを実は拒絶しているとしか思えない企業が大方だ。それでは、顧客との良好な関係、リレーション(relation)を醸成することは難しい。逆説的には、実は顧客とのリレーションを結びたいと思っていない、煩わしいと思っていると評価するしかない。(次回に続く)

多田 正行(ただ まさゆき)氏:1947年生まれ。ロッテリア、チーズブロー・ポンズ・ジャパン・リミティッド、日本タッパウェアなどでシステム企画に携わった後、93年に独立。現在「eCRM塾」主宰。著書に「売れるしくみづくり」(ダイヤモンド社)、「コールセンター・マネジメント入門」(悠々社)、「コトラーのマーケティング戦略」(PHP研究所)など。「ITpro Watcher」で「CRM Watchdog」を連載中。