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ポイント・カードの思い込み

 ポイント・カードが乱発されている。ポイント・カードを発行すれば顧客をつなぎ止められると、多くの発行元は根拠もなく思い込んでいる。ポイント・カードは、販売している製品とそこで受ける処遇(優遇)の組み合わせで、顧客をつなぎ止めたり、顧客シェアを増やしたりできる。

 例えば、米国の航空会社のポイント・カード(マイレージ・カード)だ。米国の空港では搭乗待合室に入る前の通常のセキュリティーチェックに加えて、飛行機に乗る寸前の最終搭乗口でも無作為に搭乗客を選んでボディーチェックすることがある。筆者や知人が見た範囲では、蓄積された搭乗マイル数が多い古くからのポイント・カード会員は、その該当者に選ばれにくいようだ。セキュリティーに関することだから、航空会社はそれを認めないかもしれないが、事実であれば顧客処遇(優遇)の最たるものの1つといえるだろう。

 アメリカン航空アドバンテージから筆者に毎月送られてくるeサマリーがある。蓄積マイル数が多いためか、もう2年も乗っていないのに今でも送られてくる。

 一方で、日本の大手家電量販店のポイント・カードを長年使っていても、値引き以外に目立った処遇(優遇)を経験したことがない。つまり、大手家電量販店のポイント・カードはバーゲン・ハンターしか標的顧客にしていないとしか評価できない。ポイント・カードを手掛かりとして、顧客とのリレーションの醸成を実現し、顧客シェアを向上させるというほうに向かっていないのだ。

 このような視点で考察すると、インターネット通販のポイント付与はほとんど意味がない。処遇を感じることが全くないからだ。値引きや割引きだけでは顧客をつなぎ止めておけない。ブランド品などを買うことが目的となっている消費者、顧客にとっては意味があるかもしれないが、ほとんどの顧客は買うことだけが目的ではない。消費するとか、使うとか、そういう便益を享受することにも目的がある(ポイント・カードについての筆者の論評は、http://www.unisys.co.jp/KANSAI/crm/crm1.htmに)。

 この点をより深く理解するには、サービス・マーケティングに関する専門書を読むとよい。例えば、浅井慶三郎著「サービスとマーケティング─パートナーシップマーケティングへの展望(同文館出版刊)」がお薦めだ。サービスによる差別化がいかに難しいかと同時に、競争者との差別化がいかに容易であるかも理解できる。

コミュニケーションとリレーション

 リレーションはコミュニケーションによってしか醸成できない。すると、どうコミュニケーションするか、そのコミュニケーションによってどのようなリレーションが醸成されていくのか、ということが課題になる。

 例えば、筆者はコンパック(現・HP)製のパソコンに東芝ブランドのモニターをつないで使っている。プリンターとスキャナーはキヤノン製だ。デスクはオフィス・デポで買った。USBでつながっている製品にはコニカ(現・コニカミノルタ)製のデジタルカメラやオリンパス製のICレコーダーがある。

 これらの製品のうち、大手家電量販店以外で買った製品は、東芝製のモニターとデスクだけである。それぞれの耐久消費財に、大手家電量販店の販売店証がある。この販売店証は、それぞれの製品メーカーが製品に添付した品質保証書の販売店名欄に張り付ける目的で、大手家電量販店の店頭で渡されたものだ。だから、コンパックも、キヤノンも、オリンパスも、コニカも、筆者が製品ユーザーであることを知らない。愛用者カードなるものを製品メーカーに送らないからだ。この方法は、日本の製品メーカーでは一般的で、商習慣と呼んでよい。

 ところが米国では、品質保証を有効にするには、購入者(顧客)が品質保証カードの写しを製品メーカーに送らなければならない。これは、2つのことを実現している。

 1つは、容易にリコール・リストが作成できる。耐久消費財の場合、リコール・リストが容易に作成できるというのは、問題が発生した場合の対応コストが随分と違う。

 本旨は、もう1つのほうにある。この方式を採用すると顧客を特定できる。顧客が特定できて、そこそこのリレーションを醸成しようと働きかけ続けていたら、アップ・セリングとかクロス・セリングの機会は容易にキャッチアップできる。

 例えば、筆者はもう1台のデスクトップ・パソコンを新たに買おうとして、その品定めに新聞広告をしげしげと見ているとする。その時、HPの広告に注目しているのか、デルなのか、東芝なのか、あるいはIBMなのか。コンパックを購入したのは、およそ2年半前である。デジカメも、ぼちぼち一眼レフでないと良い写真が撮れないだろうと、キヤノンに注目するのか、コニカミノルタなのか、それともニコンがいいのか。だれに相談するか、どう製品情報を得るか、そしてどこで購入するか、などと思案する。

 ソフトウエアの一部には、インストール作業の最終過程でユーザー登録を要請する場合があるが、IP化の時代である。インターネットで、耐久消費財の購入者や利用者の登録を可能にしてみてはどうか。そうすると、もっと容易に顧客まで到達できる。そしてコミュニケーションが始められる。

特異なメディア・プリファレンス

 IP化の影響で最も顕著なのが携帯電話だ。ただ、携帯電話に依存し過ぎると顧客を見誤る。携帯電話という特異なメディアに依存する顧客や消費者の行動特性を考察しなければならないからだ。

 携帯電話を持って道を歩いているとか、電車内で目を点にして携帯画面に見入っているとか、車を運転中に携帯電話で話しているとか(法律で禁じられているが)、そういう風景を次々に見せつけられていると、次第に携帯電話そのものに対する違和感、嫌悪感さえ覚える。またそういう利用行動にはまっている人を次第に卑しいと思い始める。

 コミュニケーションというのは、人と人との対話が基本であって、携帯電話にはまっている人は排他的に思える。つまり、携帯電話をコミュニケーション・メディアと位置づければ、そういうプリファレンス(選好度が強い状態)の人は、実はコミュニケーションによってリレーションを醸成することが極端に選好的過ぎて、売り手側からは好ましくない顧客に分類されそうだからだ。

 正高信男著「ケータイを持ったサル─人間らしさの崩壊(中央公論新社刊)」を読むまでもない。(次回に続く)

多田 正行(ただ まさゆき)氏:1947年生まれ。ロッテリア、チーズブロー・ポンズ・ジャパン・リミティッド、日本タッパウェアなどでシステム企画に携わった後、93年に独立。現在「eCRM塾」主宰。著書に「売れるしくみづくり」(ダイヤモンド社)、「コールセンター・マネジメント入門」(悠々社)、「コトラーのマーケティング戦略」(PHP研究所)など。「ITpro Watcher」で「CRM Watchdog」を連載中。