表1 2 種類あるWiMAX とほかの無線通信技術との比較
表1 2 種類あるWiMAX とほかの無線通信技術との比較
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図3 WiMAXの仕様策定に大きな役割を持つWiMAX Forum
図3 WiMAXの仕様策定に大きな役割を持つWiMAX Forum
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「携帯電話にコソっと入れる」

 というわけで,最初はイー・モバイルを訪ねた。ADSL事業者のイー・アクセスが第3世代携帯電話(3G)の提供を目指して設立した事業者だ。WiMAXの実用実験の準備を進めているという。取材に対応してくれたのは,最高技術責任者の諸橋知雄(もろはしともお)さんだ。

 なぜWiMAXに注目したのですか?

 「3Gの補完技術として有力だと思ったからです。広いエリアをカバーする移動性のある通信サービスは無線LANには難しい分野。この分野で,より高速で使いやすい技術としてWiMAXには期待しています」(諸橋さん)。

 確かに,無線LANは狭い範囲をカバーするLANの技術。WiMAXと無線LANの規格を比べると共通点もあるが,大きく三つの点で異なる(表1[拡大表示])。それは,(1)多元接続方式,(2)全2重通信方式,(3)距離——だ。

 多元接続方式とは,複数のユーザーが無線の伝送路を共有して同時に利用するためのしくみのこと。無線通信では,複数のユーザーが同時に同じ周波数帯域の電波を発信すると,電波が混信して通信できなくなる。そこで,WiMAXや携帯電話を基盤としたCDMA2000 1X EV-DO*などでは,使う周波数を変えたり(FDMA*),時間をずらしたり(TDMA*),電波にコードを埋め込んだり(CDMA)して,異なるユーザーの電波を区別できるようにしている。

 それに対して無線LANは,データを送りたいときに誰も電波を出していなければ,電波を出せる(CSMA/CA*)という単純なしくみを採用している。この考え方は基本的にイーサネットと同じ。電波や電気信号を検知できる狭い範囲で使うことを想定しているのだ。全2重通信に対応していないのも,LANを無線化したからといえる。

 こう見ると,WiMAXは無線LANよりも携帯電話に近い技術のようだ。

 再びイー・モバイルの諸橋さんに聞いた。WiMAXが実用化されたらどんなサービス形態になるんですか?

 「まだ決まっていませんが,最終的には3Gの端末にコソっとWiMAX機能が入っているというイメージになると思いますよ」(諸橋さん)。携帯電話の電波が足りない都市部で通信するとき,ユーザーに意識させずに3GからWiMAXに切り替えるしくみを端末に持たせるという話だ。どうやらイー・モバイルは,WiMAXを携帯電話向けの無線技術として活用するようだ。

FWA版のForum認定製品は年内登場

 では,実際のWiMAX対応製品はいつごろ市場に登場するのだろうか。そこで,WiMAXに積極的なチップ・ベンダー最大手のインテルの梅野光(うめのあきらさん)*を訪ね,WiMAX製品の登場時期を聞いてみた。

 「FWA版WiMAX対応のチップはすでに販売しています*。WiMAX(ワイマックス) Forumフォーラムの認定に合格した機器は,年内にも登場するでしょう」(梅野さん)。

 年内には製品が出てくるわけか。ところでWiMAX Forumって何ですか?

 「WiMAX Forumは,WiMAXを推進する企業が参加する業界団体です。ちょうど,無線LANに対するWi-Fi(ワイファイ) Alliance(アライアンス)*の位置付けの組織と考えればいいでしょう」(梅野さん)。

 Wi-Fi Allianceといえば,無線LANの実装仕様(プロファイル)を策定し,各社の製品がその仕様を満たしているかどうか,ほかの製品と相互接続できるかどうかといった点を認定し,お墨付きを与えるところだ。

 IEEE802委員会で決められた標準規格にはオプションが多く,メーカー各社が規格に則って製品化しても相互接続できないケースが多い。そこで,オプションの扱いなど細かい点まで実装仕様を決めて,それを満たしている製品を認定するわけだ(図3[拡大表示])。「WiMAX Forumでは現在,すでに実装仕様があるFWA版WiMAX製品の認定作業を進めているところです」(梅野さん)。

 モバイルWiMAXの実装仕様はどうなっているんだろう。「IEEEで標準化が終わっていないのでForumの実装仕様もまだありません。でも,標準化が完了すれば,モバイルWiMAXの実装仕様はすぐに出てくるでしょう」(梅野さん)。

 WiMAXの製品化や実用化には,WiMAX Forumが大きな役割を果たしているんだな。