(左)コンタクト・マネジメント・ソフトの“元祖”、ファーストウェーブ・テクノロジーズのホームページ。(右)コトラー著「マーケティング・マネジメント」(第10版)に紹介されているAct!
(左)コンタクト・マネジメント・ソフトの“元祖”、ファーストウェーブ・テクノロジーズのホームページ。(右)コトラー著「マーケティング・マネジメント」(第10版)に紹介されているAct!
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ACT!の貢献

 コンタクト・トラッキング&マネジメントが米国で広くマーケティングのITとして認識されるようになったのは、シマンテック社(当時)から発売されたACT!(商品名)によるところが大きい。ACT!はコンタクト・トラッキングとしては本格的なパソコン用ソフトで、現在も多数のユーザーを抱えている。

 当初のACT!はMS-DOS上で動作するソフトだったが、当時普及していたネットワークOSであるネットウェア上でデータベースを共有できる機能も備えていた。あらゆるコンタクト手段の活動記録を、わざわざデータベース化することなく共有できたのである。インターネットが普及する以前の、パソコン通信の時代である。現在、例えばセールスフォース・ドットコムがASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)で提供しているのと似た機能を提供していた。

 当時のパソコン用ソフトとしては、ACT!は相当なヒット商品であった。ACT!がマーケティング組織や販売組織に与えた影響は重要である。ACT!を使ったユーザーは、必然的にコンタクト・トラッキング&マネジメントとはどういうことかを体験し学習し、その知識がおのずと蓄積されたからだ。

 右上の写真はコトラーの名著「マーケティング・マネジメント(第10版)」の630ページに紹介されているACT!のパッケージである。表面に「Turn contacts into relationships and relationships into results (コンタクトをリレーションシップに変え、リレーションシップを成果に変える)」とコピーが添えられている。写真に添えられた説明は「ACT! is a software program used by many sales reps.」とある。

 日本のシマンテック(東京・渋谷)は94年にACT!を日本語化したが、日本では結局ほとんど売れなかった。その頃話題になっていたPIM(個人情報管理)ソフトの1種だと販売元が誤解したのが大きいだろう。結局、日本では販売を断念してしまった。そして日本のユーザーである我々は、コンタクト・トラッキング&マネジメントの知識や経験を獲得し蓄積できる数少ない手掛かりを失ってしまった。

マーケティング理論の実践を試みたIBM

 前回、ITの専門家の一部に、基盤となるべきマーケティングやマネジメントの理論を軽んじる風潮があると述べた。だが歴史を振り返れば、マーケティング理論の実践を意図的に手がけていたIT系の企業は少なくない。例えばガースナーが再生に取り組んでいた時代の“巨象”IBMである。

 当時IBMはテレセールスの組織化に熱中していた。94年頃、サンノゼにテレサービス・センターという試行的な組織があって、VAR(付加価値再販業者)経由で販売したIBMの小型機で動作するアプリケーションの販売を非対面で行っていた。そのテレサービス・センターでは、RPG言語で書かれたコンタクト・トラッキング・ソフトウエアが使われていた。

 IBMはハイブリッド・マーケティングの理論を検証する作業を行っていたといえる。その拠り所となったのが89年から90年にかけてハーバード・ビジネス・レビュー誌に掲載されたローランド・モリアティーらによる2つの論文である。論文の題は「Automation to Boost Sales and Marketing」、「Managing Hybrid Marketing Systems」である。ダイヤモンド社刊行の翻訳版ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス誌にも掲載され、今でも抜き刷りで入手できるので、一読されると参考になる。

 このテーマに関してコトラーの「マーケティング・マネジメント」を参照されるなら、第20章「Managing the Sales Force」を薦めたい。販売組織へのCRMの適用について理解を深められると思う。(次回に続く

多田 正行(ただ まさゆき)氏:1947年生まれ。ロッテリア、チーズブロー・ポンズ・ジャパン・リミティッド、日本タッパウェアなどでシステム企画に携わった後、93年に独立。現在「eCRM塾」主宰。著書に「売れるしくみづくり」(ダイヤモンド社)、「コールセンター・マネジメント入門」(悠々社)、「コトラーのマーケティング戦略」(PHP研究所)など。