基板にチップがぎっしり並ぶ
では,いよいよW32SAの中身を見せてもらおう(図2[拡大表示])。
W32SAは折りたたみ型なので,きょう体は上下二つに分かれていて,ちょうつがいでつながっている。きょう体の上部はディスプレイやカメラ,それらの関連部品が占める。通信機能やマルチメディア機能を実現するための主要な部品は,きょう体の下部に収められている。
背面カバーを開けると,そこにはチップがすき間なく並んだ緑色の基板が現れた。よく見ると,基板が2枚入っている。大きなメイン基板と小さなサブ基板である。
電話機として必要な通信機能やマルチメディア機能など,主にディジタル処理にかかわる部品はメイン基板にある。一方,テレビ放送やFM放送の受信に使うチューナなど,アナログ処理にかかわる部品はサブ基板にある。
別の基板に分けてノイズを避ける
「チューナを別の基板に分けたのは,ノイズの影響を避けるための工夫なんです」と説明してくれたのは,W32SAの無線にかかわる部分の開発を指揮した土屋(つちや) 等(ひとし)さんだ*。
テレビやFMラジオのアナログ・チューナはノイズの影響を受けやすく,少しのノイズで映像や音声の品質が大きく劣化する。携帯電話に必須の通信機能を担うベースバンド・チップは,このアナログ・チューナにとって大きなノイズ源になってしまう。
そこで,アナログのチューナをサブ基板に集め,ディジタルのチップを載せたメイン基板から分離したというわけだ。さらに,写真では見えないが,サブ基板とメイン基板の間に金属を蒸着させた樹脂板をはさみ,ノイズが伝わらないようにしている*。
メイン基板にあるベースバンド・チップは,携帯電話の通信処理の主要な部分を担う最も重要な部品である。送信時には,送信する通話音声をディジタル信号に変換し,電波に乗せるための変調処理を加える。受信時は送信時と逆の処理を施す。また,ベースバンド・チップはプロセッサを内蔵しており,ユーザーがダウンロードしたアプリケーションを実行するときも働く。
このW32SAに特徴的なのは,「マルチメディア・チップ」と呼ぶマルチメディア処理専用の部品を載せている点だ。このチップは,映像や音楽のデータをデコードして再生したり,逆に録画・録音のためにエンコードしたりする役割を果たす。また,著作権保護のための暗号化処理もこのチップが担う。
あれ,そう言えば,チップ同士をつなぐ配線が見当たらないな。チップはどうやって接続してるんだろう。
「部品をつなぐ配線は,すべて基板の中を通してあります」(江上さん)。1枚に見える基板も実は8層で,その中で配線を引き回しているという。
5本ものアンテナを搭載
W32SAの特徴は,5本ものアンテナを搭載していることだ(図3[拡大表示])。携帯電話の通信向けに2本,テレビ放送およびFM放送の受信向けに2本,そしてFMトランスミッタ向けに1本である。
伸縮自在で本体にしまったり外部に伸ばしたりできるアンテナは「ホイップ・アンテナ」と呼ばれる。一般の携帯電話機では,ホイップ・アンテナを通話(通信)用途に使う。これに対しW32SAでは,より高い受信感度が要求されるテレビ放送とFM放送の受信向けに使うことにした。
もし電波の状況が悪くホイップ・アンテナでは受信感度が不十分な場合でも,イヤホン・アンテナを使うことで感度を上げられる。イヤホン・アンテナとは一般的なイヤホンの導線をアンテナに利用するもの。電波を受ける導体部分を長くできるので,ホイップ・アンテナよりも受信感度が高い。
通話(通信)用途に使うのは,2個の内蔵アンテナである。白いプラスチックに覆われていてわかりにくいが,金属板を折り曲げたものだ。長いアンテナを小さい体積に収める工夫である。
5本目のFMトランスミッタ向けアンテナは,開発にとても苦労したそうだ。「当初はキーパッドの周辺に這わせておけばよいと考えていました。でも,実際に作ってみると全然電波が飛ばなくて焦りましたよ。最後にはなんとかすき間を見つけて,そこにアンテナを押し込みました」(土屋さん)。
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