全日本空輸執行役員客室本部長の山内純子氏は、航空業界初の女性役員だ。そればかりか、30年近く客室乗務員(CA)として顧客と向き合ってきた現場出身のリーダーである。

「頭ごなしに部下をしかりつけてはいけない」を持論とする山内氏は、失敗を責めない風土作りにまい進してきた。一方的にしかれば、「(CAの)思考が停止し、ほどほどのサービスしかしなくなる」からだ。

日経情報ストラテジー12月号の特集では「日本の現場力」をテーマに、山内氏を含む現場のリーダー数人を取材した。

現場経験の長かった山内氏は管理職になった今でも、自分をCAの立場に置き換えて意思決定を下している。「CAだったら、どう思うか。どういう行動をするか」を常に考えているのだ。まさに現場起点のマネジメントである。

管理職になって初めての大仕事といえる「目標管理制度(MBO)」の導入時も、現場の反応を意識しながら進めていった。MBOはCA一人ひとりが目標を立てて、成果を半年ごとに上司と検証していく。山内氏は、まず上司である部長や現場のリーダーを務める班長に、何のために導入するのかという制度の意義を理解してもらおうと必死に取り組んだ。

「そんなこと言ったって、上司はバラバラじゃない」——。導入を促進する立場にあるリーダーたちが一枚岩になっていなければ、きっとCAは納得しないだろう。山内氏にはCAたちの反応が手に取るように分かるのだ。

管理職たちを説得するため、山内氏は1泊2日で合宿を開いた。酒を酌み交わしながら明け方3~4時ぐらいまで徹底的に話し合った。

特集では、山内氏のほかに、キヤノンの石井裕士・映像事務機取手工場長や、永谷園の情報システム部長兼統合計画部長、永谷喜一郎執行役員などにご登場いただいた。現場が厚い信頼を寄せる優れたリーダーには、管理される側である現場の視点に立っている人たちが実に多い。

管理職になり、責任とともに仕事の量も増えてくると、現場の気持ちを忘れがちだ。裏を返せば、部下の立場で考えることさえできれば、現場の力を引き出すのはそう難しいことではないだろう。部下が思うように動いてくれないと悩んでいたら、自分が部下だったころを少し思い出しながら判断するように意識を変えてみてはどうだろうか。