無償のIP電話ソフトとして,世界的に有名になった「Skype」。ルクセンブルクに本社があるスカイプ・テクノロジーズが開発したSkypeは,全世界で1億5000万ダウンロードを突破した。今年8月,同社に日本人として初めて参加し,Skypeに関する日本の技術責任者となった岩田氏に,今後の事業展開を聞いた。(聞き手は蛯谷 敏=日経コミュニケーション)
−−スカイプ・テクノロジーズでの役割を教えて欲しい。
大きく三つある。(1)開発者向け技術情報の提供,(2)本社が策定した「認定プログラム」を日本市場向けに改良すること,(3)日本で上がってきた技術要求を本国に橋渡しすることだ。
中でも力を注いでいるのが,(1)の開発者向けの技術情報の提供。スカイプの戦略はSkypeのプラットホームを提供し,その上で利用できるアプリケーションを開発してもらうこと。日本のSkypeユーザーを増やすには,アプリケーション開発者に豊富な情報を提供することが重要だ。
スカイプの開発者向けのWebサイト「Developer Zone」内に日本語で情報交換できるフォーラムを8月に立ち上げた。日本語で要求を出してもらう場を用意した。既にフォーラムに参加している開発者もおり,必要なSkypeのAPI(application programming interface)に多くのリクエストを頂いている。
−−これまでスカイプ本社と守秘義務契約を結ばなければ利用できなかったSkypeのAPIを7月から無償で公開した。その狙いは。
Skype関連のアプリケーションをより早く開発してもらうためだ。Skype向けアプリを作るたびに本社と契約していたのでは,時間がかかり過ぎる。面倒な手続きを排除することで,Skype対応アプリが自己増殖することを狙っている。こうした仕組みを「エコシステム」と呼んでいるが,スカイプの狙いはエコシステムを活性化することにある。
スカイプから認定を受けたアプリケーションには「Skype」の認定ロゴを付与する。認定にはスカイプ本社の厳密な接続検証をクリアする必要があるが,スカイプが“お墨付き”を与えるメリットは大きいだろう。認定アプリケーションの検証施設は,現在はエストニアにしかない。将来は日本にもテスト環境を構築する計画だ。
−−現在,スカイプではどのようなAPIを開発しているのか。
開発中のAPIは,随時スカイプの開発者向けWebサイトにアップしている。その中でも面白いのは,すべての通信プロトコルをSkypeの上で通せるAPIだ。これが利用可能になれば,Skypeのネットワークそのものをインフラにして,新しいアプリケーションの開発が可能になる。実現には,セキュリティなどの問題も考える必要があるが,全世界に張り巡らされたSkypeのネットワークを利用したアプリケーションの可能性は大きい。
−−国内のPtoP(peer to peer)ソフト会社の草分けだったアリエル・ネットワークからスカイプに転進した理由は。
成長が期待できる企業で再び自分を試してみるのもいいと思い,スカイプに参加した。SkypeもPtoP技術を基にしたソフトという経緯から,Skypeに関する技術情報をアリエル在籍時から知っていた。実際,ビジネスの場でSkype関連の仕事をする機会が多かった。深く仕事をするうちに,スカイプから参加の呼びかけがあった。
私自身はこれまでロータス(現IBM),マイクロソフト,アリエル・ネットワークと一貫してコミュニケーション・ツールの開発に携わってきた。スカイプでは,これまでの経験を充分に生かせる職場であると感じている。