アプリケーションのパフォーマンス向上やデータ保護/BCP、ニーズに応じた迅速なITリソースの調達…。企業にとって欠かせないこれらの要件を実現するためには、企業のITインフラを「次世代データセンター」へと“変革”させる必要がある。

 そこで、システム導入のための意思決定支援サイト「ITpro Active」では、「データセンター変革~ITのパフォーマンスを最大化するために~」と題して、特にパフォーマンスの向上に焦点を当てたセミナーを、2013年9月10日に東京で開催した。

 この分野に詳しいアイ・ティ・アールの甲元 宏明氏が次世代データセンターを支える技術と市場動向を解説したほか、リバーベッドテクノロジー、日本ヒューレット・パッカード、日本マイクロソフトが、データセンター変革を実現できる製品、技術について解説した。

基調講演
次世代データセンターテクノロジーの動向と活用指針

 基調講演では、アイ・ティ・アール シニア・アナリストの甲元 宏明氏が、近未来の企業ITインフラの姿、次世代型データセンターの価値、次世代データセンター構築/選定のポイントなどについて、詳しく解説した。

アイ・ティ・アール
シニア・アナリスト
甲元 宏明氏

 「IT部門は、10年後、20年後を見据えたITの構想化と次世代IT基盤構築に取り組む必要がある。そのためには、ハイブリッドクラウドを中心とした革新的なITの活用を推進すべきであり、次世代データセンターが重要な役割を果たす」---。講演の冒頭で、甲元氏はこう強調し、電力が普及していった歴史をなぞるように、クラウド・コンピューティングが当たり前の時代になると指摘。「クラウドにより、データセンターの運用効率は破壊的に向上する」と強調したうえで、国内ユーザー企業のクラウド利用動向に関するITRの調査結果(2012年10月に実施、回答企業1008社)を紹介した。

 それによれば、中小企業から大企業までの全企業規模の平均値で見ると、クラウドを導入している企業の割合は、プライベートクラウドが19.5%、SaaSが22.2%、IaaS(インターネット経由の利用)が15.2%、IaaS(閉域網経由の利用)が12.2%。これは低いように思えるが、「大企業に限れば、大きく様子が変わってくる」(甲元氏)。3000人以上の企業規模の場合、導入率はプライベートクラウドが43.4%、SaaSが42%、IaaS(インターネット経由の利用)が27.5%、IaaS(閉域網経由の利用)が33.3%と高い。「大企業を中心に、クラウドはもっと普及する。完全に“キャズム”は超えた」と、甲元氏は語る。

 甲元氏は、近未来(10年、20年後)のクラウドアーキテクチャは、「自前主義」派と「持たざる経営」派に分かれる、と指摘する。「自前主義」派は、自社データセンターのプライベートクラウドをベースとしながら、必要に応じてパブリッククラウドのSaaSを利用する。一方、「持たざる経営」派は、大手商用データセンターの仮想プライベートクラウド(VPC)をベースとしながら、必要に応じてパブリッククラウドのSaaSを利用する。「近未来のクラウド・コンピューティングでは、特に、パブリッククラウド基盤のポートやプロトコルの制限を解除し、固有要件に対応したIaaSを提供する仮想プライベートクラウド(VPC)が重要になるだろう」(甲元氏)。

伸縮性、事業継続性、省エネルギーが次世代データセンターの要件

 甲元氏によれば、データセンターは5年でニーズが代わり、10年で老朽化する。このため「長期利用を想定して、次世代データセンターを検討するべき」と指摘する。では、次世代データセンターの要件とは何か。甲元氏は「VPCあるいはプライベートクラウドを大規模に運用可能であることが、次世代データセンターの要件となる」という。

 具体的には、3つの要件が必要になる。1つは、サーバー設置や処理能力の増強要求に対して迅速な配置が可能になる「伸縮性」。要求されるスペックは、オートスケール、データセンター・スケールアウト、SDN、SDDCなどだ。

 2つめは、事業継続性。要求されるスペックは、免震建物/床、地震PML10%以下、自家発電能力48~72時間、液状化の回避などである。

 3つめは、省エネルギー。要求されるスペックは、冷却方式/アイル分離、PUE1.2~1.4、給電能力6~12KVA/ラック、床荷重1000~2000kg/平方メートルなどだ。

次世代データセンターを支える注目技術

 次いで甲元氏は、次世代データセンターを支える注目技術を6つ挙げた。

 1つめは仮想プライベートクラウド。パブリッククラウドのインフラを用いるが、閉域網(L2-3サービス、IP-VPNなど)またはインターネットVPN(IPsecなど)経由の接続に対応したプライベートクラウド向けの資産を提供するもので、「最近利用が伸びているサービス」(甲元氏)である。

 2つめはオートスケール。需要増減に応じて自動的に、サーバーのスケールアウトやインターネット回線帯域幅の拡張を行い、従量課金とする仕組みだ。「主に大規模Webサイト向けのクラウド機能であり、固定的なリソース配置に比べてコストメリットが高い」(同)。

 3つめは、クラウドDR。仮想サーバーのイメージを保管しておき、本番環境の被災時に遠隔地のクラウド上で立ち上げる方式のDRである。「平常時は、データレプリケーションのみが課金され、低コストで実質的なウォームサイトを構築できる」(甲元氏)。

 4つめは、ネットワーク仮想化だ。ネットワーク・リソースを仮想化する手法の総称で、「ネットワークをアプリケーションから動的に再構成/制御することが可能なSDN(Software Defined Network)が注目を集めている」(同)。

 5つめは、データセンター・スケールアウト。データセンターの壁を越えて、仮想環境上のシステムを移転したり、スケールアウトしたりする手法で、「システムの可搬性と稼働性の確保へ向けた取り組みが進んでいる」という。

 6つめは、WANアプリケーション/SaaS/クラウドストレージの最適化だ。WAN最適化技術をベースに、Webアプリケーション、SaaS、クラウドストレージなどのサービスを高速化する技術で、「こうした製品の市場も伸びている」(甲元氏)。

 さらに、データセンターの究極像として「Software-Defined Data Center」を紹介した。これは米VMwareが提唱している概念で、すべてのITリソース(サーバー、ストレージ、ネットワークなど)が「仮想プール化」されるものだ。

 甲元氏は、「次世代データセンターを実現するには、IT部門のマインドセットの転換が必須」と言う。「次世代データセンターを活用したハイブリッドクラウドにおいては、運用自動化だけではなく、管理プロセスの高度化が要求される。IT部門は、コストセンターから脱却し、社内/グループ内サービス・プロバイダとしての役割を志向すべきだ」と強調し、講演を締め括った。

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