2012年に、クラウドサービスに相次いで大規模な障害が発生した(表1)。2012年6月に発生したファーストサーバの障害は、顧客のデータを完全に消失するという最悪の結末になった。こうした事態を目の当たりにして、パブリッククラウドを使いにくいと感じる企業は少なくないはずだ。

表1●2012年に発生した主要なクラウドサービス障害
影響範囲が大きいトラブルが次々に発生して、パブリッククラウドで大規模障害が発生し得ることを実感させられる半年間だった。
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 パブリッククラウドの活用支援を手掛けるサーバーワークスの大石良社長は「ファーストサーバの事故以降、顧客から多数の問い合わせを受けた」という。

“本業”システムもクラウドへ

 とはいえ、クラウドの利便性はほかに代えられないものがある。例えば東京証券取引所は2011年12月に運用を開始した相場情報配信サービス「東証 Market Impact View(β版)」に、KVHが提供するIaaS「KVH IaaS」を採用した。「実験的な無料サービスのため、自前でITインフラを保有するのは合理的ではなかった」(東証の田中大介情報グループ部商品企画運用グループグループ長)。

 企業の本業そのものを支えるシステムにも採用が始まっている。ソーシャルゲームを提供するgumiは、ゲームの基盤となるアプリケーションやデータベースのサーバーを、2010年に米アマゾン ウェブ サービス(AWS)のパブリッククラウドに移行した。「サービスの急拡大でサーバーを1週間ごとに増設する必要があり、自前でのサーバー調達が難しくなっていた」(gumiの田村祐樹執行役員技術開発部長)という背景だ。

 住宅ローン販売のSBIモーゲージは2009年以降順次、業務システムの大半を米セールスフォース・ドットコム(SFDC)のパブリッククラウド上に構築してきた。今では顧客から住宅ローンの申し込みを受けてから融資を実行するまでの一連のプロセスを、SFDCのPaaS「Force.com」上のアプリケーションで実行する。SBIモーゲージの藤岡康臣企画部システムグループグループ長は「販売代理店がインターネットに接続するだけで利用できる業務システムが必要だった。それまではオンプレミスのシステムに専用線で接続していて、コストが高いうえ専用線の開通まで時間がかかっていた」という。

リスクはオンプレミスとほぼ同様

 パブリッククラウドの活用がビジネス上必須となれば、クラウドサービスの信頼性を判断したり、ユーザー側で実施すべき対策を計画したりする必要がある。

 実際、前述のユーザー企業はサービス利用に際して、対策を講じている。gumiは「クラウド事業者が用意する冗長化やバックアップのオプションを利用して、重要な情報の消失が起こらないようにシステムを構成した」(田村技術開発部長)。SBIモーゲージは「クラウド事業者が十分にデータの安全性に配慮していることを確認し、そのうえで重要データをバックアップする仕組みを導入している」(藤岡グループ長)。

 対策を考えるには、まずパブリッククラウドのリスクを正しく理解する必要がある。ユーザーの業務に深刻な影響を与えるトラブルとしては、次の四つが想定できる(図1)。一つはクラウドに預けていたデータが消えてしまうことだ。二つめはサーバーやネットワークの障害で、一定期間システムを使えなくなってしまうこと。三つめは事業者の撤退などでサービスが終了してしまうことだ。四つめはセキュリティ被害である。

図1●クラウドサービスに潜むリスク
リスクは大きく4種類に分類できる。適切なクラウドサービスを選定したり、ユーザー側で対策を実施することでリスクは軽減できる。サービスによっては様々な対策のオプションを用意しているものもある。
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 こうしたリスクは実はオンプレミスのシステムの場合と大差ない。オンプレミスでも同様の懸念があった。クラウド特有といえるのは「サービスごとの差異が大きく、サービスの選定がリスクを左右する。また、ユーザーで実施する障害対策の方法がオンプレミスとクラウドで違いがある」(デロイトトーマツリスクサービスの谷口博一パートナー)といった部分だ。

 IaaS、PaaS、SaaSといった種別の違いによっても、リスクの評価方法やユーザーがやれることが変わってくる。一般にIaaSはユーザー側が高い自由度でリスク対策を実施できる一方、「何もしない」場合のリスクは高い。SaaSは何もしなくても一定の信頼性を保つが、ユーザー自身で選択できることは少ない。

 コストに対する意識も重要なポイントだ。障害対策を実施すれば当然コストがかかる。システムやデータの重要度と向き合って、必要な対策を取らなければならない。

 次回からはIaaS、PaaS、SaaSといったクラウドサービスの種類別にシステム障害への対策を解説する。セキュリティ対策は章を分けて説明しよう。