2012年6月、フィリピン・マニラ近郊にあるマカティ市の高層ビルのオフィスで、スマートフォンやタブレット端末対応のアプリ開発拠点「Laboratory V」が活動を開始した。メンバーは全員が20代、30代のエンジニアで、HTML5やCSS3(カスケード・スタイル・シート3)、JavaScriptなどによる開発を得意とする。
この拠点を立ち上げたのは、企業向けのオークション事業を手掛けるオークネットである。同社が出資するIT関連会社のオフィス内にスペースを設けて、現地採用の技術者やデザイナーを配した(図1)。ユーザー企業が、スマホアプリの開発を目的に海外に拠点を設けるのは珍しい。
オークネットがここまで取り組む理由は、国内のITベンダーにHTML5を使ったスマホやタブレット端末向けアプリ開発や、ユーザーインタフェース設計のノウハウや技術が不足していると判断したからだ。「今後のシステム開発は、スマホやタブレット端末を想定したマルチデバイス対応が必要だ。HTML5を中心に開発を進めていくことにしたが、国内では技術者が確保できないのが悩みだった」とオークネットの鈴木廣太郎常務執行役員は明かす。
同社はこれまでも、スマホやタブレット端末などスマートデバイスに対応した情報システムを開発してきた(図2)。PCだけでなくスマホやタブレット端末から「競り」に参加するオークションアプリや、中古自動車査定のアプリなどだ。2012年6月には、オークションで取引する商品物流の現場でiPadなどから操作するシステム「mint smart backyard system」を稼働させたばかりだ。
こういったスマートデバイス対応システムを開発する際に常に課題となるのが、ITベンダーの選定だった。オークネットが活用を目指すHTML5に通じたITベンダーはまだ少ない。「実際に会って話をしたITベンダーは100社を超えた。それでもこの会社にお願いしたい、というベンダーは見つからなかった」(オークネット システムサービス事業部の黒柳為之ジェネラル・マネージャー)。
そこで海外の技術者に目を向けた。スマホやHTML5の技術は日進月歩であるため、ネットで最新の情報を得やすい英語圏の技術者が望ましい。「フィリピンは日本との時差も少なく、最適と考えた」(鈴木常務)。
100人弱の候補者を面接し、テストとしてスマホ向けHTML5アプリを実際に作ってもらい、その中からまずは6人を採用することにした。CSS3を使って画面を設計するデザイナーと、データの処理やAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)の呼び出し機能をHTML5やJavaScriptで実装するプログラマーが、3人ずつだ。人員は徐々に増やす。すでに三つの社内システム案件が決まっている。