ENUMはインターネット上で電話番号の情報を交換しIP電話など端末同士の接続を実現する技術である。日本で本格的な実験が始まってから約1年が経過した。ENUMの現状と今後について,国内でENUMの実証実験に取り組むENUMトライアルジャパン(ETJP)の堀田博文副会長(写真)に聞いた。同氏は,日本レジストリサービス(JPRS)の取締役企画本部長でもある。

--ETJPの取り組みについて教えて欲しい
 二つのワーキング・グループ(WG)を設置し技術的な検討を重ねている。一つがDNS WGである。ENUMは電話番号と端末のIPアドレスをDNSサーバーで対応付けている。このDNSサーバーの実装技術や運用について話し合っている。

 もう一つがプライバシー・アンド・セキュリティWGである。DNSサーバーの情報を参照できる対象を事業者に限定するのかどうか,ユーザーの登録情報をどうやって保護するのか,などについて議論しているところだ。

--実証実験はどこまで進んでいるのか
 昨年9月にETJPを立ち上げてから,「フェーズ1」でDNSサーバーの構築から端末やアプリケーション間での接続,「フェーズ2」でENUMを通信サービスに適用する際の技術的な課題について取り組んだ。

 当初掲げていた最後の「フェーズ3」にはまだ取り組んでいない。通信事業者間での相互接続を予定している。ETJPのプロジェクトは今年の9月までの1年の期限付きで立ち上げた。現時点では決まっていないが,恐らくETJPのプロジェクトは延長することになるだろう。

 また,この7月には国際的に大きな動きがあった。アジア太平洋地域でもENUMを盛り上げたいと考え,APEET (Asia Pacific ENUM Engineering Team)というグループを7月19日に立ち上げた。

 参加しているのは各国におけるドメイン名管理の関係機関である。具体的には,日本のJPRSのほか,中国のCNNIC,韓国のKRNIC,シンガポールのSGNIC,台湾のTWNICの5団体である。各国間でENUMを使った相互接続実験や技術協力に取り組む予定だ。

--APEETで,日本としてはどんな貢献ができそうか
 日本は大きく二つの側面で貢献をしていく考えだ。一つはDNSに関して。今,ETJPで複数のDNSサーバーを用意して,ENUMに適用した際のパフォーマンスを測定している。この情報が提供できそうだ。

 もう一つがやはりVoIPに強い日本としての貢献だ。実際にIP電話サービスが提供されていたり,端末も完成度の高い携帯電話機型が出始めている。ENUMで利用する,SIPサーバーについても日本から貢献できると考えている。これらの成果を来年2月に日本の京都で開催する会合で披露したいと考えている。

--ENUMの特徴として国際間で端末同士の接続が容易になるという点がある。現時点での見通しを教えてほしい。
 ENUMによる国際間での接続を実現するには,クリアすべき点が大きく二つある。一つは各事業者間のユーザーをつなぐ技術面。

 もう一つが国家レベルでのENUMの承認である。政府が運用を認めた国同士でないと,ENUMを利用した国際間での接続ができない。日本であれば総務省から,ITU(国際電気通信連合)にENUMの運用を認める旨の文書を提出してもらう必要がある。現在,総務省の研究会で検討を行う方向だと聞いている。

(聞き手は市嶋 洋平=日経コミュニケーション