オンプレミス環境にパブリッククラウドのPaaSと同じ環境を作る“オンプレミスPaaS”製品が相次いでいる。共用型のデータセンターを使う際のセキュリティやネットワーク遅延の不安を解消する。社外にデータを持ち出せないなど制約条件が厳しい企業が、PaaSの開発効率の高さを生かせるようになる。
“オンプレミスPaaS”は日本IBM、日本オラクル、日本マイクロソフトが提供する。日本IBMは「IBM Bluemix Local」を2015年10月に提供済み。2016年4月に日本オラクルが「Oracle Cloud Machine」の提供を開始した。2016年内には日本マイクロソフトが「Microsoft Azure Stack」をリリースする。
オンプレミスPaaSは、各社のパブリッククラウドのPaaSと同じ構成の基盤をオンプレミスに構築するもの。専用のアプライアンスや仮想基盤上で動作するパッケージソフトで実現する。日本IBMと日本オラクルは運用サービスと組み合わせ、月額課金の形態で提供している。日本マイクロソフトは具体的な提供形態を明らかにしていない。
日本IBMの武田成史氏(クラウド・ソフトウェア事業部 Bluemix&XaaSテクニカルセールス 部長)はオンプレミスPaaSを提供する理由を「パブリッククラウドを利用できないユーザー企業にも、PaaSの特徴を享受できる選択肢を用意した」と説明する。
PaaSは管理ポータル上で簡単な操作をするだけで、Webアプリケーションサーバーやデータベースといったミドルウエア環境を利用できるサービス。インフラの設計や実装の大部分が不要になる。加えて、ビルドやデプロイ作業の多くが自動化されており、数クリックで高速かつ簡単に完了する。アプリケーションの開発作業を効率化でき、特に何度もデプロイするような場合に大幅に手間を削減できる。
ただし、パブリッククラウドであることに不安を感じ、躊躇するユーザー企業は少なくない。主な不安点は、「コードとデータを社外に預ける」「オンプレミスとの連携はWAN経由となり、ネットワークの遅延がある」「事業者都合のメンテナンスで停止することがある」といったもの。ユーザー企業のセキュリティポリシー、既存システムの連携インタフェースの制約、ビジネス上のスケジュールなどと合致しないケースが少なからずあった(図1)。
オンプレミスPaaSは、パブリッククラウドのPaaSと同じ環境をアプライアンスまたはソフトウエアでオンプレミスに構築する。これによって「コードとデータが社内から出ない」「社内の同一拠点で既存システムと連携できるため、遅延が少ない」「メンテナンスのタイミングを柔軟に調整できる」といった具合に、ユーザー企業の不安を解消できる。
日本オラクルの本多 充氏(執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括Fusion Middleware事業統括本部長)は「データを自社の外に出せないなど制約が大きいユーザー企業でも、PaaSの特徴を生かして“作っては壊し” をする必要があるアプリケーションを効率的に開発できる」と話す。