デンソーは2016年10月15日、同社のAI(人工知能)技術を紹介するセミナーを開催した。その中でディープラーニング(深層学習:多層ニューラルネットによる機械学習)の1種であるDNN(ディープニューラルネットワーク)の処理を高速化、メモリー消費量を低減する技術を紹介。画像認識で必要なベクトルの計算をプロセッサーの処理に適した論理演算の形へ変換する工夫によって、処理速度を15倍高速化することが可能になった。リアルタイム処理が必要な車載カメラへの搭載を目指す。

プロセッサーが画像処理しやすいようにベクトル行列を近似して演算量を低減した
プロセッサーが画像処理しやすいようにベクトル行列を近似して演算量を低減した
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 車載カメラで画像認識する場合、識別処理に要する時間や消費電力に制約があるため高度な処理が難しい。画像認識やDNNの計算ではベクトル行列の内積計算が必要になるが、そのまま計算すると演算量が増えてしまう。そこでデンソーは、整数基底分解法と呼ばれる方法で、それぞれのベクトル行列を計算しやすい二値、三値の行列に近似し、処理しやすい論理演算の形に変換した。この方法をDNNに適用した実験では、計算速度を15倍高速化し、メモリー消費量は1/20に圧縮できたという。誤差は従来から1.43%だけしか増加しなかった。

DNNの処理速度を15倍に高速化した
DNNの処理速度を15倍に高速化した
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 これまで車載カメラの画像認識では、高速処理や省電力化のために輝度勾配ヒストグラム(HOG)と線形サポート・ベクター・マシン(SVM)を組み合わせたアルゴリズムを使用していた。この技術では決まった形状の対象物しか認識できないうえ、例えば歩行者の体の一部が物陰に隠れている場合などは認識精度が低下するという課題があった。DNNでは学習によって歩行者の認識精度を高めたり、対象物の属性や動く方向などを予測したりできる。

 高速処理技術を開発したデンソーアイティーラボラトリの安倍満氏によれば、これまで多くの技術者が高速化のために機器の性能を下げたり、ハードウエアを改善したりといった工夫を施していたという。しかし、「このような実装の努力では限界がある」ことを指摘し、「問題を再設定し、適切に解き直す努力が必要だ」と述べた。

高速処理技術を開発したデンソーアイティーラボラトリの安倍満氏
高速処理技術を開発したデンソーアイティーラボラトリの安倍満氏
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