写真1●TMJが3月5日に開催した研究成果発表会
写真1●TMJが3月5日に開催した研究成果発表会
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写真2●オトデザイナーズと共同開発したジェロトークアプリ
写真2●オトデザイナーズと共同開発したジェロトークアプリ
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 コンタクトセンター運営のTMJは、顧客からの問い合わせを受け付ける現場で、高齢者からの問い合わせ応対の見直しを実施。成果を出していることを発表した。

 取り組みとその成果は2015年3月5日、顧客企業に向けた研究成果発表会で明らかにした(写真1)。発表会では、取り組みによって顧客満足度を高める一方、1回の平均通話時間を短縮させることができたと発表した。

 同社が高齢者の問い合わせ対応の見直しに着手した背景には高齢社会の到来がある。総務省が2014年9月に発表したデータによると、65歳以上の高齢者人口は3296万人、総人口の25.9%と、人数とその割合がともに過去最高になった。

 TMJが手掛けるコンタクトセンターでも、問い合わせにおける高齢者の割合が増えているところが少なくない。耳が遠くなりがちな高齢者からの問い合わせを円滑に進められなければ、高齢顧客の満足度が高まらず、コンタクトセンターの対応効率も下がってしまう。

 そこでTMJは2012年から、超高齢社会に対応できるコンタクトセンターの研究を実施してきた。担当するいくつかのセンターで高齢者対応に特化した見直しに着手したところ、「顧客満足度と対応効率をともに高める成果が得られた」と、TMJの竹内冬樹事業推進本部競争力開発品質開発室室長は説明する。

 高齢者対応に絞り込んだ見直しに当たり、老人性難聴などの研究成果を基に、高齢者とのコミュニケーション方法のコンサルティングなどを手掛けるオトデザイナーズの協力を得た。

 というのも、耳の遠い高齢者とのコミュニケ―ションで「やるとよいこと」と一般に知られていることは、聴覚の研究から禁じ手であることが多いからだ。

 その1例が「耳の遠い高齢者にはなるべく大きな声で話す」こと。「高齢者になると、大きな音を抑える内耳の働きが弱くなるので、大きな音は大きな音のまま聞こえる。良かれと思って大きな声で話すのは、かえって高齢者に強い不快感を与えてしまう」と、聴覚の専門家でもあるオトデザイナーズの坂本真一代表取締役は話す。

 また、自身の声が高齢者にどう聞こえているのかは、30代や40代といったセンターのオペレーターには想像できない。そこで老人性難聴などの研究成果を基に、話しかけると高齢者が聞こえている音声に変換するスマートフォンアプリ「ジェロトークアプリ」を共同で開発(写真2)。現場のオペレーター向け研修で利用して、高齢者対応の重要性を認識してもらうのに役立てた。

 発表会ではジェロトークアプリも公開された。記者がこのアプリに話しかけてみると、1音ごとの区別がつきにくくなり、もごもごした話し声に。AMラジオ放送のチューニングをずらしたときの音声に近く、聞き取りづらかった。耳の遠い人にとって聞き取りやすいかどうかの点数も出て、100点満点中57点。「『あ』『い』などの母音をはっきり発音するように」といったアドバイスが出た。

 このジェロトークアプリを、問い合わせる顧客の4割が60代以上というある大手製造業のコンタクトセンターの高齢者対応研修で活用。聞き取りづらさを認識してもらった後、現場オペレーターを交えて、高齢者対応の見直しを図った。

 聞き取りやすい言葉への言い換え集をセンター内で作って応対のやり方を見直したり、脱線しがちな話をコントロールしたりするスキルを研修で習得したりした。その結果、実施前に比べて、顧客満足度はアップ。平均通話時間も14%削減する成果が得られ、問い合わせた顧客の課題を電話で解決する時間の短縮が図れた。

 また別の製造業のコンタクトセンターで同様の高齢者対応の見直しを実施したところ、高齢者とのやり取りで、聞き返しや説明し直しの回数を半減させる成果が出たという。

 TMJの竹内室長は、「2030年になると日本の高齢化率は3割に上り、家計消費の5割を占めると言われる。そういった社会になると、カスタマーサポートなどを行うコンタクトセンターでは、高齢者対応は標準的なものになる。センター側の高齢者特性の理解が今後ますます必要になってくるだろう」とみている。同社は今後も高齢者対応の見直しなどの取り組みを継続していくという。