世界経済フォーラムを主宰している経済学者のクラウス・シュワブ氏は、2025年に世界の人口の90%がインターネットに常時アクセスし、1兆個のセンサーがインターネットに接続され、そのトラフィックの50%が家電製品などのデバイスによるものと予測している。IoT(Internet of Things)をベースに、モノとモノがつながるだけではなく、モノと人がつながり、すべてが“コンピューティング”になる社会がやってくる。

パブリッククラウド環境を自社システムの一部として扱う

 そうした未来を見据え、HPE(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)では、「ハイブリッドITの時代が到来」し、「インテリジェント・エッジがIoTによる産業革命を促進する」というビジョンを描き、次世代に向けた情報戦略を推進している。

 まず「ハイブリッドIT」に関して説明する。今日では多くの企業が自社のシステムをクラウド、特にパブリッククラウドに移行しており、クラウドなくして企業の情報戦略はあり得ないという状況になっている。しかしその一方で、自社の大切な情報アセットをすべて外部に委ねていいのかというセキュリティ上の課題が改めて問い直されている。また、クラウドへの移行が思ったほどTCO(総所有コスト)の削減に貢献していないという問題も浮上している。

 そこで、アジリティ(俊敏性)が求められるビジネス領域にはパブリッククラウドを活用し、セキュリティの担保や性能などが求められるビジネス領域についてはプライベートクラウド、ないしはオンプレミス環境などトラディショナルなITインフラを活用するという「ハイブリッドIT」を目指す傾向が企業の間で高まっている。そうした動きを受けて、ハイパー・コンバージド・インフラストラクチャ(HCI)に対する需要が拡大していることは周知の通りだ。だが、ハイブリッドITを実現するときに直面するのが、パブリックの部分の管理とプライベートもしくはオンプレミスの部分の管理をそれぞれ個別にやらねばならず、負荷が増大してしまうことである。

 こうした問題に対して当社が提案しているのが「HPE Synergy」という製品。これは、ハイブリッドIT環境を「シンプルにする」ことを念頭に置いたもので、パブリッククラウドも自社システムの一部として管理できるようにしている。具体的には、データを物理的にどのサーバーに配置するか、パフォーマンスのバランシングをどう行うかなどを一元的に管理できる。HPE Synergyは、HCIの次なるハイブリッドITのインフラ技術を提供するものであり、当社ではそれを「コンポーザブルインフラ」と呼んでいる。というのも、コンピューティング、ストレージといったリソースを「コンポーネント」に分解して、ワークロードなどに応じてソフトウエアベースで自由に組み替えていけるようなソリューションになっているからだ。

次世代インフラ「The Machine」、ITのパラダイムシフトを加速

 次に、「IoTによる産業革命」について話を進める。冒頭で述べたように、今後膨大な数のセンサー類がインターネットにつながることになる。今、自動運転に注目が集まっているが、現状ではクルマ側(エッジ側)では自ら取得したデータしか分析できず、道の渋滞状況や障害物の情報と併せた統合分析はデータセンター側で行っている。クルマはクラウドを通してデータセンターとやり取りしているので、通信速度がボトルネックになり、衝突回避に必要なコンマ何秒というオーダーの判断はできないのが現状だ。データ通信回線に使われる銅線の伝送速度の限界も見えつつあり、克服すべき課題は多い。加えて、IoTの普及に伴って増大し続ける電力消費量も大きな課題だ。全世界のクラウドが消費する電力量は、2020年までに日本全体の電力消費量を超えてしまうと予測されている。

 こうした課題に対しHPEでは次世代ITインフラ「The Machine」の開発を進めている。そこでは、大規模なメモリーを中心に置いて、その周囲をタスク専属の処理を行うCPUで囲んで同時に利用するという、まったく新しい発想が採用されている。中央にあるメモリーは「ユニバーサルメモリー」と呼ばれ、不揮発性メモリーを利用する。電源を落としても情報を維持できるので、電力消費量の削減に大きく貢献する。また、銅線ではなく、光通信を採用することで、伝送速度にかかわる問題も解消。極めて高速かつ高効率の通信を実現している。これによって、先ほどの自動運転の例で言えば、クルマ側で衝突回避など高度な判断を行うことも可能になる。TheMachineは、2020年の実用化を目指している。

 欧米ではすでにこうしたITあるいはコンピューティングのパラダイムシフトを見据え、次世代の情報戦略に向けた準備を進めている企業も多い。ぜひ日本の企業も、「クラウドの先には何が来るのか」を念頭に置きながら、自社の情報戦略のあるべき将来像を検討していただきたい。